渋谷がお祭り騒ぎなのがテレビで放送されていた。ハロウィンがこんなに大イベントになったのはここ数年な気がする。
シーズンも終わり時間に余裕が出てきた栄純は今日はジム終わりに早めに帰ってくるらしい。私の方が遅くなるかな、帰るの。
職場の休憩室のテレビを見て、せっかくのイベント事だからケーキでも買っていこうかな、と栄純の嬉しがる顔を想像して仕事に戻った。
駅前のケーキ屋に入ると、そろそろ閉店で並べられているケーキの数は少ない。モンブラン系は今日は人気でもうないらしい。残念。
何にしようかな、とショーケースに並べられる数少ないケーキ達を眺めていると、ジャケットの裾に違和感。
「とりっくおあとりーと~!」
犯人は小さくて可愛らしい魔女だった。サイズの合っていない帽子が傾いてる。そこから覗く瞳はキラキラ輝いていて私に何か期待しているようだった。
すごく可愛い。可愛いけど、この子にあげられるようなお菓子は持っていない。
「こら何してんの!ごめんなさいね……!」
「やーとりっくおあとりーと~~!!」
どうしようか、目線を合わせてごめんねと言おうとした時、後からお店に入ってきたお母さんと思われる人が女の子を抱き上げて私に謝った。全然良いんです、と首を振って女の子の被るそれに手を伸ばした。
「帽子、可愛いね」
「きょうはまじょなの!まほうつかうの!」
「どんな魔法使うの?」
「ケーキをね、たくさんつくるまほう!」
実に女の子らしい。将来の夢はケーキ屋さんかな。お母さんがどれが食べたい?と女の子に聞けばワクワクした目でケーキを見つめていた。
結局選んだのはプリンだったのだけれど。
……プリンか。
じゃあね、とフレンドリーに私に手を振ってその子とお母さんは私より先に店を出た。
ケーキばかりを見ていた私も、当初の予定とは別のものを買ってから栄純が待つ家へと歩いた。
部屋の明かりはついていて、やっぱり栄純の方が先に家に帰っていた。
片手で鞄の中をまさぐって鍵を開けようとすれば、なぜかその前にガチャリと鍵の開く音がした。
「やっぱさんだ!おかえりっす!」
「ただいま、なんでわかったの?」
「足音で!」
足音……?で、わかるものなのか。癖があるのかな。不思議に思うと同時に足音で気付いてくれることが嬉しい。私も足音でわかるようになりたい。
得意げにする栄純と部屋に入ると、やっと私の手荷物に気付いた。
「何すか?それ」
「デザート」
「おお!俺のもあります!?」
「あるに決まってるでしょ」
よっしゃーって私の手からそれを受け取って冷蔵庫に閉まってくれた。まずは夕ご飯だ。
栄純も帰ってきたばかりなのかな。テレビもついてないし。
私が作っている間に栄純にお風呂の準備を任せてキッチンに入った。
出来上がった夕ご飯はあまり時間をかけなかった料理にしては出来が良い。栄純も美味しいと言ってくれるから作り甲斐がある。嘘はつかないと思うし。多分。
栄純は私が食べ終わるのを待ってくれて、食べ終わったと同時に、それじゃあデザート一緒に食べやしょう、ってすごく楽しそう。
「ケーキっすか?」
「ううん。違うよ」
「あれ?でもこれ、駅前のケーキ屋ですよね?」
「うん」
首をかしげながらケーキの入っている箱をテーブルまで持ってきた。私は紅茶とお皿とスプーンを用意。フォークじゃなく、スプーン。
「ケーキじゃないんすか?」
「プリンだよ」
「プリン!!」
昔からプリンが好きで事あるごとに食べてた。差し入れがプリンだった時は私の分あげてたし。周りから餌付けしてる、なんて言われたっけ。
プリン好きは今も変わらないようで、私がケーキ屋で出会った女の子と同じような目をしていた。
「ただのプリンじゃないよ」
「?」
「開けてみて!」
なんだか、栄純が楽しそうにするから私も楽しくなってきた。栄純のこういうところ、私にも伝染する。なんだろうと栄純は箱を開けて、栄純の表情に私も顔が緩んだ。
「なんて言うんですっけ、これ!」
「プリンアラモード」
「そう!それだ!すげー美味そう!」
「食べよ!」
大きめのカップに入るフルーツに彩られたプリンをお皿に移した。こんなに喜んでくれるとは私も想像以上で、買ってきてよかった。ハロウィンありがとう。
目の前で美味しそうに食べる栄純を見てお腹がいっぱいになりそう。もう長いこと一緒にいるけど、飽きないなあ。飽きる日なんて来ないと思うけど。
「にしても、なんで今日これ買ってきたんすか?思いつき?」
「……今日は何の日でしょう」
若干予想できていたけど、やっぱり栄純は今日という日に対して興味もなかったらしい。気付いてない。ていうか日付も頭に入ってなさそう。キョトンとしたその顔がすべてを物語っている。
「何の日でしたっけ?あれ?今日何日だ?」
「……10月31日、ハロウィンです」
「あーーー!ハロウィン!」
ハロウィンという言葉は知っていたらしい。手をポンと叩いて納得していた。
つまり何の日かと聞かれたら私も上手く答えられないけど。仮装して、はしゃぐ日。あとお菓子をねだる日。
「栄純」
「はい?」
「トリックオアトリート」
またキョトンとしてる。そうだ、今日はお菓子をねだる日なんだ。別に、何かもらおうとかそういうのを期待してるわけじゃないけど、今日という日にあやかってみた。栄純はどうするんだろう、出方を伺ってみたけど、何を思ったのか栄純は最初にプリンを見た表情を再び見せて、
「何すかそれ?スイーツ?スナック?」
「……………」
「まだ何かあるんすか!?」
「……ないよ」
小さい子でも知ってるこの言葉、溜息をつきながらじゃあ何なんすか、と口を尖らせる栄純に教えれば、俺何も持ってねーしな、とシュンとしてしまった。いや、別にお菓子が欲しかったわけじゃないから大丈夫なんだけど。
「栄純ほんと流行りに疎いよね」
「そっすか?……流行りに疎い男は嫌とか!?」
「誰もそんなこと言ってない……!」
「来年はハロウィンについてちゃんと勉強して、さん楽しませます!」
「来年……」
栄純にとったら、何てことない一言なのだろうけど、私ばっかり栄純とずっと一緒にいれたらいいな、なんて思ってるから来年までは確約されたみたいで、プリンと一緒に幸せを噛み締めた。
ハッピーハロウィン