ア・ラ・モード
スープのいい匂いが部屋に漂ってきたところで、今日はいつも通りにまだ寝ている栄純を起こしに行く。ランニングをしない日はいつも私が先に目覚ましを止めてそれなりの時間になった時に栄純の柔らかい頬っぺたを引っ張る。

「栄純、起きて」
「……んん、」

肌、いつまで経っても綺麗だな。健康的な生活を送っているからか。昼は私はあまり関与していないけど、朝と夜は結構気を遣ってる。プロ野球選手だし何かあったら大変だから。
私の手から逃れるように寝返りを打つと、一人では広いベッドの端に寝っ転がるものだから、私もベッドの上に乗る。

「えーいーじゅん」
「………」
「沢村栄純くーん」

今日はなかなか手強いな。栄純め。こっち向いてもくれないし。
気持ち良く寝ているのを起こすのに申し訳なさはあるけど、今日は出かける準備をまだしていないし。昨日、明日やります!なんて言ってたから。

「ねえ起きて。時間」
「………」
「沢村さーん」
「………」
「…………好きだよ」
「………」
「……す、わっ!」

急に視界が一転して、目の前に栄純の胸元。あれ、え、まさか起きてた?

「おはようございやす」
「起きてたんじゃん」
「ぼんやりと起きてました!けど今完全に覚めました!」
「ええ、嘘」
「ほんとっすよ!」

見上げた先の栄純が心底嬉しそうにしているから、なんだか言いくるめられてもいいかなって。
もう起きなきゃいけない時間なのに栄純は私の腰に手を回して足を絡める。私も手を回しちゃうから、大概だ。

さんが俺に好きだって言ってくれるなんて…」
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいっすよ!なんで、これからもそうしてください!」
「そうしたらパッと起きられるの?」
「……寝たフリするかも」

バカ正直に答えるんだから。それで起きてくれるのならいいけど、でも毎朝毎朝言わなきゃいけなくなるのはちょっと、いや、とても避けたい。バカップルになり得る。

さんいい匂い」
「朝シャン」
「シャンプー新しいの買ってましたね!」
「ちょっと奮発しちゃった。使っちゃダメだよ」
「え!?」
「嘘」

いつも使ってるシャンプーが切れそうだったから化粧品を買うついでに寄った百貨店でつい買ってしまった。トリートメントも一緒に。
使うのはもちろんいいけど、栄純からあのシャンプーの香りがすると思うとなんだかむず痒い。

「ていうか、もう起きないと」
「んー……」
「用意してないでしょ?」
「してないけど……」

私が起こしたってことはもう時間なことはわかってると思うのに、中々離してくれない。

「やっぱもうちょっと夜更かしすりゃーよかったっす」
「そしたら今起きれないでしょ」
「でも、もっと一緒にいてーし……」
「それはしょうがない」
「んー」
「ほら、起きよ?」

片手を伸ばして柔らかい栄純の髪の毛の中に手入れた。栄純の方が一回りも二回りも私より大きいのに、今は小さく見える。
しぶしぶ私を支えたまま上体を起こして用意をするのかと思えば、私の首元に顔を埋めた。

「やっぱ俺ばっかさんのこと好きだ……」
「……」
さんは寂しくないんすか。俺今日から遠征なのに」

ぎゅう、と効果音が聞こえそうなほど、キツく抱きしめられる。髪の毛がくすぐったい。
遠征行く日なんて、何回もあったのに今日はどうしたんだろうか。

さんがいつも言わないこと言うから連れて行きたくなるんすけど」
「……ああ、」
「ずりぃ」

栄純がこんなになるほど、私はその二文字を言っていなかったか。
栄純ばかり私のことが好き、って、本気でそう思ってるのかな。
好きになったのだって私の方が先なのに。絶対、絶対に私の方が栄純のことが好き。負けない自信はある。

さんも来ません?」
「……仕事があります」
「ちぇー」
「遠征終わったら、一緒にDVD見よう?」
「なんのっすか?」
「それも一緒に決めよ」

ほんの小さな約束だけど、遠征が終われば私とのお楽しみがあるよ、ってことを頭の片隅にでもいいから置いておいて貰いたい。半分自分の為だけど。
栄純が寂しいと思ってくれているように、同じ、いやそれ以上に私は寂しいんだからね。

「あ、俺あれ見たいです!動物の!」
「結局決めてるし」
「映画館でさんと見れなかったし、やっと見れますね!」

ほら、すぐそうやって楽しそうにするんだから。好きの度合いは私に軍配があがる。
VS