ア・ラ・モード
バラエティー番組を見ていたら、仕事と私どっちが大事なの?と聞く女性心理についてとか、そういった類の番組が放送されていた。番組内では、本当は比べてほしいわけではなく気遣ってほしいだとか論争が繰り広げられていたけど、ふと栄純を見ながら考えてみた。
野球と私、どっちが好き?なんて、絶対に言わないし言おうとも思わないけど、反応は少し気になってしまう。
昼ご飯を一緒に食べた後にいつも食器を洗う私に最初は俺がやりますとスポンジを奪おうとしたけど、折角オフなんだから休んでと断固として譲らなかった。
私が食器を洗う中で栄純は諦めたのはいいものの、すぐにテレビの中の野球トピックスに夢中になっている。難しそうな表情をしているかと思えば目を輝かせて、純粋に凄いと思う選手のプレーでもあったのかとその横顔だけで判断できる。
こうやって、野球に瞳を奪われていつでも少年のように楽しんでいる姿が好きなのだから、やっぱりどっちが好きなの?なんて言えるはずもないと思った。

「はっ……!!」

食器を片付けた後、フルーツを食べるかなと思って栄純が座るソファーの目の前のローテーブルへ置いたけど、それには一向に気付かなかった。
本当に夢中になっているなと頬が緩んでしまったけど、見られていないのでセーフ。暫く椅子に座って全く減らないそば茶を飲みながら栄純の様子を見ていたけど、急に我に返ったように声を上げた。
パチパチと瞬きを繰り返してからぐるん、と私へ顔を向ける。

「なに……」
「俺いま、どのくらいさん無視してました!?」

別に、無視なんてされていないけど。フルーツを目の前に置いたから無視してしまったと考えたのだろうか。話しかけないように私も無言で置いたから栄純が不安に思っているようなことはしていない。

「無視されてないよ」
「二時間、いや三時間くらいですか!?」
「そんなにテレビ見てないでしょ。集中してたのは三十分くらいじゃない?」
「集中するのと夢中になるのは違います!夢中になって周りの大事な声が聞こえなくなることはいけないことだ!!」

勢いよくソファーから立ち上がり、栄純は拳を握る。
だから、私は別に栄純に声をかけたわけではないのだけど。後、誰から教えてもらったのかは知らないけどそれは試合中の話なのではないのか。ここは家で、周りには私しかいない。

「フルーツにも気付かないなんて、一生の不覚……!」
「一生は言い過ぎ……」
「ん、これ美味いですね!種もない!」

項垂れながらも栄純はその視線の先にあった葡萄を一粒口の中に放り込んだ。
眉を下げて顔を顰めていたと思えば、すぐに私へ陽気な笑顔を見せた。ころころと表情が変わって、本当に少年のようだ。

「前に栄純の実家から送られてきた葡萄だよ」
「美味いわけだ!」
「ね」
「それはそうと!!」

このまま葡萄の話へとシフトするかと思ったのに、真剣な眼差しを私へ向けた。葡萄を再び一粒とってズカズカと私の元まで歩み寄ってくる。
その葡萄を私の口元へ持ってきたので困惑して栄純を見上げれば、有無を言わせないような雰囲気を纏っていたので控えめに口を開くと押し込むように放り込まれた。
深みのある果汁が口の中いっぱいに広がって美味しい。美味しいのだけれど、栄純が何をしたいのか全く分からず最大限の旨味は味わえていない気がする。

「美味いですか?」
「え、うん」
「一緒に食べようって声かけてください」
「……」
「返事は」
「う、うん。ごめんね」

拗ねたような口ぶりで話す栄純思わず頷いてしまったけど、集中してたし。いや、栄純的には、声がかけられても気付かないほど夢中になることは悪いことなのかな。私にはよく分からないけど。

「でも、」
「拒否を拒否!」
「私、野球に夢中な栄純が好きなんだよ」

高校の時からずっと変わらず、ボールを投げて追いかけている栄純を見ているのが好きなことは私も昔から変わらない。
その瞳はこっちに向いていなくたって、楽しそうにしている横顔を見ているのが大好きなのだけれど、つい口にしてしまったことに栄純が瞳を爛々とさせていることで気付き、逃れるように目を逸らした。

「俺、一生野球辞めません!」
「……うん」
「じいちゃんになっても辞めません!」

辞めろと言われたって、言葉通りお爺ちゃんになっても、身体が動く限りどんな形でも栄純は野球を続けるだろう。容易に頭の中で思い描くことができる。
白球を追いかけている時だけは、その眼差しはきっと何年経っても変わらない。
ただ、一人で続けるのだろうか。

「一緒にやってくれる人、いる?」

御幸とか、あの男も野球しか頭にないからずっと続けていきそうだけど、受けてくれたりするのだろうか。
めんどくせえってため息吐きながらも構えてはくれるのかな。
想像を膨らませていると、栄純も頭を捻らせていたみたいでくぐもった声を出した後、ああ、と何かを思いついたようだった。

「子供ができて孫ができて、そしたらいつまでも一緒にキャッチボールできますよね」
「……まあ、そうだね」
「あ、でもよぼよぼの爺ちゃんとなんてやっぱ物足りなくなるかな……」
「……」
「そうだ!その時はさんが付き合ってくださいね!」

これで解決!と鼻を鳴らす栄純に、私は何も返さずに、ただこの胸の響きを抑えたいとそば茶を喉に通した。
あなたが考えるいつかに、私はどういう立ち位置で一緒にキャッチボールをしているのだろうか。

「できたらね」

グラスをテーブルに置いてから呟いた。
そんなことを私に言うのであれば、その前に欲しいものがあるんだけど。でも、どうせ深くは考えていないのだろう。

「じゃあ今からでもキャッチボールしておきやしょう!!」

だってこの人は、野球のことで頭がいっぱいなのだから。
それでいいと思ってしまっているから、例えば「野球と私、どっちが好き?」と聞いて「野球」と答えようとも、私にとってはそれが欲しい答えなのかもしれない。
どっち