お風呂上りにドライヤーで髪を乾かす時間が長くなった気がする。つまりそれ位髪が伸びたというわけで。
風邪を引かないように完全に乾かしてからトリートメントを髪に馴染ませた。
それから部屋に戻ると、もう寝ているかと思っていた栄純がソファーに寝転がりながらどことなく嬉しそうに携帯をいじっていた。かと思えば眉間に皺を寄せている。……まさか女の子、いやいやそんな、そんなことはない。はず。
「ねえ、栄純」
「はい?」
「髪切ろうかと思うんだけど、どう思う?」
声をかける私の分ソファーをあけてくれて隣に座る。携帯は画面を暗くしてテーブルに置いた。ちょっと気になるけど、疑うのは良くない。いや、栄純を疑ってるわけじゃない。もし女の子だった場合はその女の子に私が釘を刺しに……
「いいんじゃないすか?」
「え、どっちが?」
「切っても切らなくても」
うわあ、どうでも良さそうな返答きた。興味なし。栄純には好きな髪型とかないのか。ありそうには見えないけど。でも私に似合う、と思ってる方を言ってくれてもいいんじゃない。
しれっと答える栄純に私は口を尖らせた。
「どっちの方が好きか聞いてるの!」
「えー、どっちが好き、ってより……さんが好き」
「………」
またさっきと同じ調子でサラッとそんなことを言うものだから、赤くなるのは致し方ないでしょう。
口元を抑えて顔を逸らした。ほんと恥ずかしい。きっと携帯いじってたのは女の子関連じゃないと断定しよう。
「それはありがとうございます……」
「どーいたしまして!」
絶対に今の栄純の顔を見れない。私が大好きな顔をしてるから。私が持たない。
結局髪、どうしようかな。切ろうか切らないか。私の判断に委ねてくれているけどそれはそれで迷う。切ると子供っぽくなるかな…。
栄純から顔を逸らしたまま考えていると、髪の毛に栄純の手が伸びてきた。
「さん髪の毛サラサラしてますよねー。いつも良い匂いするし」
「……トリートメント効果かな。栄純もふわふわしてるじゃん」
「そーですか?」
「うん、ワンちゃんみたい」
「えー」
「嫌なの?」
髪の匂いを嗅がれてくすぐったい。身を捩らせていると栄純は私をひょい、と膝の上に乗せた。目線が栄純より少し高くなる。視線の先の栄純はちょっとだけ不服そうだった。
「犬は嫌ですよ」
「……えっ、待ってそこは」
言いながら栄純は私の首筋に顔を埋めた。瞬間ちくりとした感覚。止める隙もなかった。
吸い付かれたそこは多分、見なくてもわかる。絶対赤くなってる。
満足そうに私から離れた栄純に私は目を細めた。
「……あ」
「…….犬に噛まれた」
「……さんだってするじゃないっすか」
「私はちゃんと見えないところにしてるもん。もーどうすんの……」
栄純から離れて棚に設置してある鏡で首元を見てみた。やっぱり、服を着ててもこんな見える場所に。なんて恥ずかしいことを。
「でも、さん俺の!って感じしていいっすね!」
「……な、呑気なこと言わないでよ!もー髪切るのやめよ。ほんとにもう……」
「隠すんですか?」
「当たり前でしょ!」
怒ったふりをするけど、実のところすごく嬉しい。栄純、あんまり独占欲とかそういうのはなさそうだから。こんなのなくても、私はあなたのものなんだけど。
ただ、職場でこれが見えるのは勘弁。結ばないで巻いていれば見えなくなる、かな。当分はそうしてよう。
「別に隠さなくても良くないですか?」
「恥ずかしいもん。嫌」
「出た!羞恥心!」
恥ずかしいものは恥ずかしいんだもの。しょうがないでしょ。むしろ栄純がオープンすぎるというか。
栄純は周りに私のこと、なんて話してるんだろう。あまり好きって言ってくれない彼女とか、よく怒る彼女とか、かな……。いい印象がない。
「じゃあ見えないとこなら良いですよね?いくらつけても!」
「え、うん……いいけ、っちょ!」
どう髪を巻けば見えにくくなるか試行錯誤していた手をパシ、と掴まれてもう一度ソファーへ戻ってしまった。さっきと違うのは位置。
中々見ることのない意地悪い顔した栄純と天井が視界に映る。
「え、い、今?」
「今!」
私の返事を待たずして、襟元をずり下ろして吸い付かれた。やっぱり栄純は犬みたいだ。素直で、喜怒哀楽がはっきりしてて、私のことを好きでいてくれている。
ていうか服、伸びるんですけど……。
行為が段々とエスカレートしていく中で、テーブルに置いた栄純の携帯の画面が明るくなったのを横目で見た。
【つーか、いいからさっさと彼女見せろ!】
多分、先輩の名前だった。よくテレビで見る。
なんだ、やっぱり他の女の子のことじゃなかった。嬉しくなって栄純の頭を撫でれば栄純は不服そうな顔をした。
犬