久しぶりのお菓子作り。普段の料理と違って分量とか雑にできないから気を使うのに神経がすり減るけど、栄純がやっとキャンプから帰ってくるのだから、手を抜くわけにはいかなかった。ちなみにこれは内緒。夕ご飯の後にキャンプお疲れ様でしたって驚かせる予定。喜んでくれるかな。喜んでくれるはず。栄純だし。いない間寂しくて中学や高校、大学の同級生とご飯食べてた生活もこれで終わりだ。
ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえて、いつものように勢いよくただいま戻りやし……あれ。
「……いた」
「?おかえり」
私の顔を見るなり謎の発言。そりゃ私だってここに住んでるんだからいますよ。
帰ってきた栄純はなぜだか見るからに元気がない。わかりやすいのは私としてはありがたいけど、でも何があったのか。とりあえず用意していた夕ご飯をテーブルに並べた。
大きい荷物の中身を片付けてからこっちに戻ってきた栄純と一緒に夕ご飯を食べ始めた。無言だ、珍しい。こんなに大人しい栄純、いつぶりだろう。
「……さん」
「うん」
「さん、どうしたらもっと俺のこと頼ってくれます?」
「え、どうしたのいきなり」
食べるスピードはお腹が空いていたのかいつも通り早いけど、表情は暗い。眉を下げてじと、と私を見ている。口元にご飯粒を付けた栄純はだって、と続けた。
「さん、大抵のこと一人でできるし俺がいなくても大丈夫そうじゃないっすか。俺はさんがいないと生きていけねえのに……」
「生きていけないの?」
視線を下げた栄純はコクリと頷いた。一体、誰に何を仄めかされたんだろう。私としてはありがたいのだけれど。栄純がいないと生きていけないのは私の方なんだけどな。このキャンプ中、どれほど寂しかったことか。栄純は野球している間私のことなんてこれっぽっちも考えてないだろうけど、私はあなたがいないと寂しくて耐えられなくなるんだよ。声だけじゃ足りないよ。だから、私のそばにいて欲しいから栄純の為ならなんだってしたい。
あのね、と話し始めようとする前に私の名前を呼ぶ栄純に遮られた。
「俺、さんがそばにいてくれねーと生きていけない自信あります!!」
「……」
「さんよく俺に今日夕ご飯作れなかったごめんとか言うけど、俺そういうのでさんと一緒にいるわけじゃねーし、もちろん作ってくれたら嬉しいけど、さんがそういうのできなくなったら俺がやるし!!俺はさんと一生一緒にいたい!」
「……」
「返事は!!」
「は、はい」
私の返答に漸く満足そうにしていつも通り夕ご飯を食べ始める栄純。え、無理やり言わせたよね今。
「ねえ、」
「はい!」
「誰かに、何か言われた?」
そう尋ねると、栄純は幾分か目を泳がせる。わかりやすいな、ほんと。
「倉持先輩が」
「倉持?」
ぽそりと零した人の名前は意外な人物だった。なんで倉持。球団の先輩たちじゃないんだ。倉持、つい昨日みんなと一緒にご飯食べたな。あまり覚えてないけど。
栄純は一度立ち上がって鞄から携帯を取り出して何か操作をする。
「『もう疲れたって泣いてんぞ』って」
栄純が私に見せてくれた画面は、私が酔い潰れて机に突っ伏してる写真と倉持からの一言だった。
「俺、これ今日帰ってる時見て、帰ってさんいなかったらどうしようかと思った……」
ああ、だから帰ってくるなりあんなことボヤいたのか。いやいやそれにしても倉持、なんて事を。若干記憶はある。栄純がいない生活もう疲れたってめちゃくちゃ言ってたと思う。けど、違う方に解釈したんだ、栄純。
「だからさんもっと俺に頼ってくださいね!ね!!」
「そんなこと言ってくれるの、栄純しかいないよ」
「ぜってーそんなことないです!さんモテるんですから!」
「いや、何情報よそれ。思い込みでしょう」
モテるのは栄純の方でしょうが。美容院で読んでた雑誌に掲載されてた野球選手のモテそうランキング、3位だったんだからね。1位2位は御幸成宮だったけど。成宮くんはよく知らないけど御幸って知ってる人からすれば全くモテないけどな。
「ねえ栄純」
いつまでも栄純の口元についていたご飯粒を指先にとった。栄純は首をかしげる。
「さっきの……」
「さっき?」
「……何でもない」
やっぱり気にしないでと指先でとったご飯粒を私の口元に運べば栄純はええ、気になると身を乗り出した。いや、だって、困るでしょこんなこと言ったら。何も考えずに勢いで言ったことだろうし。
「デザートあるよ」
「マジですか!!」
単純でよかった。
さっきのプロポーズ?だなんて、まだまだ聞けない。
ご飯粒