ア・ラ・モード
カチリと蓋を開けたお酒を持ってテレビの前のソファーに座る。今日も見るのは深夜のスポーツ特集。少し前までは流行りのドラマがやっていたけど、それが終わると栄純はお風呂に入りに行ってしまった。始まるまで時間あるし、って。確かに烏の行水並みにお風呂入るの早いけど、もう始まってますよ。
今日栄純は登板していないけど、相手チームに降谷くんがいて、テレビでよく観たい、って。そう言っていたのに。
降谷くんも好調そうだ。立ち上がりも良く、中継ぎに変わるまで0点で抑えたらしい。すごいなあ。

「ぬぁっ!降谷終わっちまいましたか!?」
「終わりましたー」
「不覚…!気が付いたら湯船で寝ていたっ…!」
「期待を裏切らないね…」

どうせそんなことだろうと思った。登板はしていなくとも、投球練習はしているから疲れていないわけじゃない。
ていうか、こうしていつも元気良く帰ってくるけどきっと、本当はかなり疲れてる。私にそういうところ、見せないようにしてるのかな。栄純なりの優しさ、かな。

「何飲んでんすか?」
「濃い味カルピスサワー」
「濃い味?」

栄純は、結構お酒に強い。本人は進んで飲まないけど。けどあの家族を見る限り、弱くはないだろうなあって。
私の隣に座ってテーブルの上に置いてある缶を手に取る。

「初めて見た」
「期間限定だったから買ってみた」
「美味しいんすか?」
「んー、カルピスが強い」

私がそう言えば、栄純は飲みかけの私のカルピスサワーをごくりと飲んだ。栄純が好きそうな味してるけどな。甘いの好きでしょ。

「うーん、カルピスっすね!」
「カルピスサワーだもん」
「全部飲んでもいいですか?」
「えーダメ」
「えーケチ」
「ケチ言うな」
「じゃあ好き」

少し減った缶をへへっと笑いながら渡された。
栄純はいつでも突然私にストレートに思いをぶつけてくる。それをそのままストレートに返すことが恥ずかしくて素直になれないのだけれど、そんな私に栄純はめげるという言葉を知らずに欲しい言葉をくれる。
照れを隠すように受け取ったカルピスサワーを一気に飲み干した。

「おー……」
「甘い」
「サワー?」
「……誰かさんが」
「?」

首を傾げるな。なんでわからないのよ。目の前のあんたしかいないでしょうが。
本気でわからなそうにしている栄純の首に手を回して抱き付いた。

さんお酒強くないのによく飲みますよね」
「酔ってるわけじゃないよ」
「え、そうなんすか?」

一杯飲んだだけで流石に酔わないよばか。何年付き合ってるのよ私と。
栄純は私の腰に手を回して更に引き寄せる。そういえばスポーツ特集………、終わってた。

「でもさん酔ってる時じゃなきゃ俺のこと好きだって言ってくれないからなー」
「そうだっけ?」
「そうっすよ!俺超寂しい!」

知らないフリしたけど、本当はわかってる。だって恥ずかしいんだもん。私が言わない代わりに栄純が沢山言ってくれるから、それに満足しちゃって。

「言ってほしい?」
「はい!」

耳と尻尾が見えた。ちなみに尻尾はフリフリ振っている。まさに『待て』状態。
どちらかと言えば私も栄純に対しては犬だと思うんだけどな。
遠征に行く時は寂しいし、野球に釘付けな時は、こっち見てくれないかなって思うし。楽しそうに野球をしている栄純が好きなんだけど、矛盾してる。
私は栄純の耳元に口を寄せる、フリをする。
耳元までいかずに、栄純の頬っぺたに口付けた。
離れて栄純を見ると、んー、と何か考えていた。
私からすること、そんなにないのに不満ですか。

「どうせならこっちが良かった」

文句垂れながら近付く栄純に気付いたら唇を押し付けられていた。
への字に曲がっていた栄純の口元は口角が上がっている。
前触れのないそれに恥ずかしくなって顔を逸らすと栄純は腰に回していた手を片方だけ私の後頭部に回した。

「いっつも俺からじゃないですか」
「……栄純の役目だもん」
「でもさん嫌だって言う時ないからそこは嬉しいっす!」
「じゃあ、嫌だ」

もう一度迫ってくる栄純にそう言ってみれば、そんなの聞きませんよーって、重ねられる。
本気で嫌がったことなんてないけど。ていうか嫌なわけがないし。
どんどん深くなっていくそれに夢中になっていると、栄純が呟いた。

「……甘い」
ほろ酔う