子供のように駄々をこねる栄純を置いて私は先を歩く。久しぶりに二人で買い物に来るとまず栄純は一言。
「手繋ぎましょう!」
とびきりの、繋がないわけがない、と圧をかけられてると錯覚するほどの笑顔で私に言う。
決まって私の返事はいつもこう。
「恥ずかしいから嫌」
「ええー!」
手を繋ぐことが嫌なわけじゃない。むしろ高校の時はあまり周りを気にせず手を繋いでいたけど、もうそんな初々しいことをする歳でもないし、周りの目が恥ずかしくて。そもそも一緒に歩いているだけならまだしも、手を繋いでいるところを栄純だとバレて目撃されてしまったら騒ぎになる。
「一体何が恥ずかしいと?男女が手を繋ぐのに何の躊躇いがあると?」
「年甲斐もない」
「そういえば前におじいさんとおばあさんが仲良く手繋いで歩いてたなー!」
「それは可愛いかも」
「でしょう!?じゃあはい!」
すっ、と出された左手を私は再びスルーしてスーパーに向かう。
いくつになっても手を繋げる関係って、いいな。私も今は無理だけど、周りから見て可愛い、と言われるような年齢になったらまた繋ぎたいとも思う。その時隣にいるのが、今はムスッとしてるこの人だったらいいんだけど。
「名前さんがここまで硬派だとは…」
「軽いよりいいでしょ?」
「それはそうなんすけど!」
でも俺は手繋ぎたい!って、まだ言ってる。私だって周りの目がないところなら手を繋いで歩きたいよ。でもダメ。無理。栄純は気にしなくても私は気にするんです。
「片手が寂しいなー」
「ボールと友達じゃん」
「名前さんとは恋人なんだけどなー」
「………」
「なんでだー?なんで俺の左手空いてるんだー?おっかしいなー」
ずっと一緒にいるとわかりにくいけど、昔と比べたら栄純は随分と言葉巧みに私を誘うようになったと思う。私が栄純の扱いに慣れているのと同じように、もしかしたら栄純は私の扱い方を熟知しているのかも。
ちらちらとこっちを見る栄純とその度目が合う。
その視線に一つ息を吐いた。
「遠回りして帰るなら、いいよ」
「遠回り?」
「人通り少ない道……」
大通りから外れて住宅街を通る道。そのルートならまあ、人目につくこともないしいいかな。
遠回りになっちゃうけど、それで栄純がいいのなら……、
「おーし買い物さっさと終わらせやしょう!」
聞くまでもなかった。スーパーが見えるなり走り出して早く、なんて呼ばれる。ほら、帽子落としてますよ。子供みたいだ。かと言えば時たまドキッとする仕草も自然とやっちゃうものだから私も上手く翻弄されていると思う。本人にそういうつもりはないんだろうけど。
スーパーに到着して、カゴは栄純が抱えるように持ってくれるので私はスカスカになった冷蔵庫に保存するものを選んでいく。
「今日何食べる?決めてなかったね」
「名前さんは?」
「?」
「最近俺のリクエストばっかなんで、今日は名前さんが食べたいもので!」
「……じゃあ、納豆ごは、」
「却下!それだけは断固拒否!!」
そんなに嫌いか、納豆。たまに私が朝ご飯で食べていると怪訝な顔して見てくる。ネバネバしているのがなんか嫌らしい。じゃあオクラは?って聞いたけど、それとこれとは別みたい。よくわからない。
まさか本当に…?と怯えている栄純が面白い。
「栄純が食べたいものでいいよ」
「ええー。名前さんが食べたいって思ってるのを食べたいです」
「め、めんどくさ」
「なんで!?」
なんて冗談です。本当は栄純がそう思ってくれるのが嬉しい。自然に気遣ってくれてるの。胸キュンポイントの一つです。教えないけどね。
目をまん丸くしている栄純をおいて私は食材コーナーを回る。
じゃあ、今日は何を作ろうかな。
結局何を作るかは、特売コーナーにあったかぼちゃで決まった。特売って、なんか惹かれる。別に生活に困ってるわけでもなんでもないけど。
後は牛乳やら水やらを買って、買い物終わり。
重い物は栄純が持ってくれて、私は朝ご飯で食べるパンやら軽いものを持つ。
「重くねーですか?」
「重くねーです。かさばってるだけ」
見た目私の方が持ってる感じするけど、実際栄純が持ってる方が重いからね。水とか。
スーパーを出て、来た道とは違う方へ歩き始める。
「そっちも俺持ちますよ!名前さん筋肉ないし!」
「……なんか太ってるみたいな言い方はやめてください」
「だって柔らかい、」
「もーいいから!ていうか、大丈夫。それに手塞がるじゃん」
何の為にこっちの道を歩いているんだか。遠回りだけどここを歩いてるのは、来る時駄々こねてたあなたのせいでしょうが。
私がそう口を尖らせれば、栄純は確かに!と声を上げた。まさかこの短時間で忘れてたわけじゃないよね…?
「繋ぎたいって言ったのは栄純でしょ?」
「はい!」
来る時と同じように左手を差し出された。
今度はそれに素通りせずに、ゆっくりと指を絡ませた。
たまには遠回りして帰るのもいいな。
買い物