久しぶりに、栄純が登板予定の試合を見に行く。きっかけはまあ些細なことで、唯と幸子から野球観に行くけど行かない?と誘われたから。最近御幸がいる球団の試合を見て、栄純の様子も生で観に行こう、となったらしく。折角だからと私もお誘いを受けた。
その事を当日に栄純に伝えるといつもより一層瞳をキラキラさせて、今日も頑張ってきます!って元気に出て行った。
あまり観に行くことがないから、なんだかんだで私も楽しみかもしれない。
駅で待ち合わせた唯と幸子と合流して試合が始まる前にちょっとしたカフェタイム。近況報告会。おもに久しぶりに会う私の近況が聞きたいらしいけど。これといって前に会った時と変わったことはないんだよね。
「沢村くんこの前雑誌で表紙飾ってたね」
「あー、買っちゃった私!後輩が表紙って嬉しいよね~」
「は?表紙だった雑誌。買った?知ってる?」
「買ったよ。かっこよかったもん」
「……ってほんと沢村くんがいないと素直だよね」
そんなことを言われても仕方ない。誰がなんと言おうと、あの表紙の栄純はかっこよかった。ていうか、喋らなければ栄純はかっこいいんだ。いや、喋ってもかっこいい時はあるけど。
けど素直にそんなことを栄純に言ったら…って考えると私が恥ずかしくなるから言わないの。
雑誌のことは、勘違いされたから言っちゃったけど。
唯から視線を逸らして紅茶を一口飲んだ。
「沢村くん元気?」
「すごく元気」
「あははっ、変わらなそう」
「そういえばさ、私たちの代だけでも今度集まりたい、って前園くんとこの前話してたんだけどあったらくる?」
「え、行きたいよ。ていうか、連絡とってるんだ?」
「クラス会でね。同じクラスだったから」
ああ、そういえばそうだったかも。だから唯と幸子はわりと会ってるのかな。わりとって言っても年に数えられるくらいだとは思うけど。
私のクラスもたまに集まろうっていまだに連絡はくる。その都度半分は集まってるから多分集まりはいい方。
「のクラスは集まったりしてないの?」
「してるよ」
「御幸くんとか来るの?」
「いやー来ないよ。忙しいんじゃない」
三年のクラス替えで初めて御幸と倉持とクラスが一緒になったけど、私も人に言えたことじゃないけど友達のいなさには笑った。ずっと二人でいるんだもん。卒業間際は女子と結構写真撮ってたけど。ていうか撮られてた。記念に、って。
……それを考えると、栄純も結構写真撮られてたのかな。人当たりいいしバシャバシャ撮られてそう……。
今日帰る時、その辺どうだったか聞いてみようかな、とケーキを一口食べた時、テーブルに置いた携帯の画面が明るくなった。
栄純からだった。一言、
見ててくださいねー!!!!!
って。
ビックリマーク多いなあ。
「沢村くん?」
「え?」
「嬉しそうな顔してるから」
「……えっ、マジ……?」
「うん。たまには沢村くんの前でも素直になりなよー。沢村くん喜ぶでしょう」
たまーになら、素直になってるけど。栄純みたいに毎日毎日ストレートに表現するのなんて私には絶対無理。私があまり栄純に素直にならない代わりに、その分栄純が私を求めてくれるから、いいの。
「ていうか、唯と幸子は!」
「おお、そうきたか!」
私の話ばっかりずるいと思って、今度は私が二人の近況を知る番にした。
暫くの間二人の話を聞いてから試合が始まる少し前にカフェを出て、球場に入った。
久しぶりに生で見るプロ野球観戦。やっぱりテレビとは違って臨場感がある。と、同時に私も野球が好きなんだ、って改めて実感。
またあのメンバーに会いたくなってきた。前園くん企画してくれないかな。
試合は順調に進んで、栄純は最後まで投げなかったけど勝つことができた。昨日は負けちゃったから、良かった。
今度みんなで集まろうね、と約束して私は栄純と帰るために球場から少し離れた待ち合わせ場所まで歩く。
「さーん!!!」
「!声でかい!!」
しばらく待つことになるかな、と思っていたけど栄純はすぐにやってきて、手を振りながら掛けてきた。人通り少ないけど、その声の大きさはどうにかしてほしい。
「見ててくれました!?」
「そりゃ見てたよ、っ」
「んーなんかいいですやっぱ!終わった後にすぐさんに会えんの!」
私の目の前まで近づくや否や、私は栄純の腕の中に閉じ込められた。今日、球場の真ん中、マウンドの上にいた栄純がここにいることでなんだか優越感に浸れる。栄純にだってファンは沢山いる。SAWAMURAって刺繍が入ったユニフォームを着てる人、何人見たことか。
試合中は私のことなんて頭の片隅にもないんだろうけど、こうして私に会えば言葉だけじゃなくて温もりをくれるから寂しさは拭われる。
けど、流石にこんなところでずっとこうしているわけにも行かず私は栄純から逃れる。
「あ、そういや先輩達、いい加減さんのこと見たいって言うんすけど」
「ええー……」
どうやら今日私が来ていることを先輩達に言えば、いまだに私のことを見せない栄純にそろそろ隠すなと言われたらしい。栄純は隠すつもりなんてなく私を自慢したいらしいけど、私が嫌で。私が嫌だってことを知ってるから写真も律儀に見せていないらしい。
嫌な理由は一つ。沢村の彼女大したことねーな、って思われたくないだけ。ほら、プロの人って絶対ってわけでもないけど美人と付き合ってるじゃん。付き合ってなくても美人の知り合いは多そう。勝手な偏見だけど。私なんか平々凡々な一般人だし。
「俺さんのこと自慢してんのに先輩たち、なら見せろ!って。自信ないから見せないんだろって言われてんすよ!?」
あながち間違いじゃない。私は自信がないんだもの。悔しそうにする栄純には悪いけど、そのまま見せないで、というか私の話題はあまり出さないでほしい。とりあえず、沢村栄純には彼女がいる、ってことだけを認知されていればそれでいいのです。
「おい沢村ー」
見せたい!見せなくていい。の会話を繰り返しながら歩いていれば後ろから車のライトに照らされた。その車から栄純に声をかけてきたその人、あ、サード守ってる人。咄嗟に栄純の後ろに不自然にならないように隠れた。
「帽子おまえんだろこれ。明日ビジターなんだからちゃんと持って帰れ」
「おお、ありがとうございます!!」
「……………彼女?」
彼女、と問われるその言葉にピクリと動いた。できることなら放っておいてほしかった。
けれど、無愛想にしたらそれはそれで私の株というより栄純の株が下がる。
そろそろと栄純の後ろから出てきて車に乗るその人に挨拶。
「いつもお世話になってます」
「……いやー、ほんとに………」
先輩達と一緒にいる時の栄純はどんな感じなのだろうか。返答からして、本当に世話がかかっているみたいだけど。帽子然り。
その人は私を見てすぐに栄純を睨み付けた。
「沢村てめえ覚えてろよ」
「なにが!?」
「お前には勿体ねえ人だな」
「!?」
「んじゃ明日もよろしくー」
先輩さんはひらりと片手をあげてからブロロ、と音を鳴らして高そうな車を走らせて行ってしまった。
勿体ない、……勿体ない?私が?
「……さん、俺……さんと釣り合ってないですか……?」
「へ、」
「頼ってばっかだしな俺……」
稀に見る萎れた栄純に驚いた。
先輩がさっき言ったこと、きっとからかってたとかそういう類いなのに。
頼ってばっかりって、私の方が、劣等感はあるのに。
「……バカ」
「バカ!?」
「帰ろう」
「……!!」
手、差し出してみれば栄純はすごく驚いて、数秒止まっていたけど自分の手を重ねた。指を絡ませて、ギュ、と握ってくる。
言葉がなくても、伝わるかな、これで。
「さん毎日こうやって帰りましょう!」
「無理に決まってるでしょ」
えー、って、不満そうな声出すけど、街灯に照らされる栄純の顔は嬉しそうだから、きっと伝わってる。
観戦