「中華、いや焼き肉……」
「焼き肉はこの前同期と食べに行ったから嫌」
「じゃあ中華?」
「うーん……」
「俺は何でもいけます!」
仕事が長引いてしまって帰宅時間が栄純と同じになってしまった。いつもは栄純が帰る前にそれなりに夕ご飯の仕度は整えてあるんだけど、私が帰って間を置かず栄純も帰ってきて。
待ってますよ、と言われてしまったけど、折角だから久しぶりに外で食べることを提案してみた。決して面倒くさくなったわけではない。決して。
繁華街に向かう中で何が食べたいか一緒に考える。
「お好み焼きでもいいかな……、でも油のにおいがなー、服に……」
「作業服だから?」
「作業服って何。せめて仕事着。オフィスカジュアル」
「パスタ食べてそうな服ですね!」
「何それ。でもパスタいいかも……」
最近は家でもパスタは出してなかったし、そういえば新しく、小さいけどイタリアンのお店が駅の向こう側にできてた。ポストに可愛らしいチラシが入ってたし。
栄純の格好は……まあ、大丈夫か。ジャージじゃないし。
上から下、下から上へ栄純の服装を確認。目が合って首をかしげられた。
「パスタ食べよ」
「いいっすね!」
栄純は服にそんなにこだわりはない。着れればいい、そんな感じ。御幸ほどじゃないけど。だからたまに私が勝手に買ってくるんだけど、我ながら栄純に似合う服をチョイスしてると思う。……何着ても似合うような顔立ちしてるとかは信じない。
でも、黙っていれば普通にイケメンだと思うんだけど。コンビニのあの子だってそう言ってたし。口を開くとそれが軽減されてしまう。
まあ、栄純がかっこいいってことは私だけが知っていたいからそれでいいんだけど…。
「ごめん待たせちゃってー!」
「いーよそんな待ってねーし、いこうぜ」
「本当ごめんね!」
また手を繋ぎたいって私にお願いする栄純をかわして歩いてる中、道の反対側の公園の前で待ち合わせをしているカップルの声が聞こえた。
そのカップルも私たちと同じように繁華街に向かうのだろうか、手を繋いで歩き始めた。
それをじっと見ているのが栄純にばれたらしい。
「羨ましいんですね!じゃあ俺たちも、」
「あ」
「?」
「忘れ物した」
手を繋ごうとする栄純の手から慣れたように逃げてまさに今思い出したかのように言う。
カップルを見てて思ったことはある。けど、手を繋ぐことを羨ましいって思ったわけじゃない。ていうか何度も言うけど恥ずかしいからそれは嫌。
「じゃあ戻りやしょうー!」
「先行ってて」
「え?一緒に戻りますよ俺」
「いいから先行ってて!駅で待ち合わせね!」
「ええ……?」
「ついてこないでね!先行っててよ!」
「え、ちょっさーん!」
絶対に来るなと釘をさしてマンションに戻る、フリをした。というのも私があのカップルを見て羨ましい、と思ったのは、待ち合わせ。
一緒に住んでるからどこか出かける時は待ち合わせなんてしない。一緒に住む前はそもそも全然会えなかったし。
待ち合わせなんてするのはいつぶりだろうか。なんだか、初々しい感じがする。栄純はどう思ってるかな。さん何考えてんだろー、くらいしか考えてなさそうな気もするけど。
コンビニでちょっとだけ時間を潰してからそろそろいいかなと駅に向かった。
駅に近づくにつれ人通りも多くなる。時間、結構遅いけどそっか、金曜日だからか。
遠目で栄純の姿が確認できるところまで来て、なんだか懐かしい気持ちになる。携帯いじってるけど、さっきからカバンの中から震えてる私の携帯はそれだろうか。そんなに時間経ってないのに。
「Excuse me」
待たせちゃってごめんねって、私も言おう。楽しみながら携帯をいじる栄純の元へ歩く途中、声をかけられて、しまった。背の高い外人さんに。
………どうしよう。何だろう。
「Please tell me the way to Haneda Airport」
すっごく早くて、いや多分普通なんだろうけど私には早口に聞こえて何を言ってるのか、羽田しか聞こえなかった。羽田エアポートって、言ったよね、行き方、かな……。
電車だろうから何行きに乗ればいいかってことなんだろうけど、どうして駅員さんじゃなくて私…。しかも乗り換えあるし、どうしよう。
「えー、と……」
「Do you think I can go there by bus?」
「ば、バス…?バス、No…」
「Train?」
「Yes、あー……」
「……Can you speak English?」
「の、No!そーり、」
「さんに何してんだよ!」
突然、後ろから勢いよく、良すぎてこけそうになるほどの力で引っ張られた。
その人は私と外人さんの間に割って入って、……威嚇してる。
「さんは渡さねーからな!!」
「ちょっと待って栄純ちが……、」
駅はすぐそこにあるし、ここはもう人通りが沢山ある場所。だから、周りには人も沢山いて、おそらく私が道を聞かれていたことを見ていた人たちがこっちを見て笑ってる。いや、嫌な笑い方とかじゃないけど。ちょっと待ってやだ、恥ずかしい。
「さん綺麗だからってナンパなど許すまじ!!」
「Boyfriend?」
「い、Yes……」
「???」
「Oh!Your boyfriend is wonderful!I ask other people」
爽やかな笑顔で手を振って他の人におそらく訪ねに行ってしまった。
栄純は一仕事終わったかのようにふぅ、と息を吐く。
「大丈夫でしたか!」
「……いや、もう恥ずかしいからやめてよ……」
「やっぱ何があるかわからないから一緒にいれば良かった……!」
人の話聞いてないし。待ち合わせも結局できなかった。
でも少し、いや、結構嬉しかった。もし私がナンパされていたらああやって守ってくれるんだって肌で感じたから。
栄純は私に振り向いてガッと肩を掴んだ。
「折角一緒に住んでんだから、一緒にいますよ!!ね!!」
「……うん」
「目ェ見て言ってくだせぇ!目を!見て!!」
「もういいでしょお腹空いた!」
「あーもうさん連れてかれないかハラハラだったんすからねー!」
そんなこと言ったら、私は女子アナにインタビュー受けてる栄純を見ていつも嫉妬してますけど。
連れていかれたくないのなら、私をハラハラさせないでよねって。
それは無理な話だから言わないけど。
待ち合わせ