「…さーん、」
………何か、聞こえる。
まだ目覚ましも鳴ってないのに。いや、昨日目覚ましかけた覚えはないや。いつの間にかに寝てたっけな。
「さーん、さーーん」
「………るさい」
ああ、私によりに先に起きてるとは。今日は朝早いんだっけ。だから昨日はやめよう、って私は言ったのに。何が大丈夫です、だ。私が大丈夫じゃないんだよ。
「えー俺もう行くんすけど、お見送りないんですかーー?」
「勝手にいってらっしゃい」
「………」
そう言えばきっと彼は勝手に行ったりはしない。
布団の中に篭って、どうせ私のことを無理やり起こして抱きしめてくれるだろう、完全に覚めた頭でそんなことを思いながら口角を上げていたのに、私の耳には足音がして部屋のドアを開ける音が聞こえた。
まさかと思って慌てて飛び起きるとその姿はもうなくて。
え、ちょっとなんで。
「待ってよ!」
玄関で靴を履いてる彼を呼び止めた。すると私に振り返って、してやったり、と笑う。
「ぜってー来ると思いやした!」
「…………栄純のくせに」
ちょいちょい、と手招きされて、悔しいけど誘導される通り栄純の中にすっぽり収まる。
いつもは栄純の方が私にべったりなのに。何なのよもう。
「さんクールだから俺ばっか好きだなーと思って」
「……別にそんなことないよ」
「それを金丸に相談したら、たまには引いてみろよって」
「引かなくていい」
ほんと、仲良しだよね金丸くんと。昔から。
何かあった時に真っ先に相談するのはクリス先輩か春市くんかな、と当時は思っていたんだけど、クリス先輩も引退、春市くんもだんだんと栄純に冷たくなっていって、栄純の相談役は金丸くんになっていた。お世話係りとも言えたけど。
ちょっと羨ましいなあなんて思っていたのは内緒。
にしてもいらないアドバイスしてくれちゃって。金丸くん。
「じゃあ行ってきやす!」
「……朝ご飯食べた?」
「冷蔵庫から適当に。だってさん起きねーんだもん」
「だって昨日……!」
「?」
「……何でもないです」
本気で悪びれもなさそうなのが怒れない。この体力ばかめ。ピッチャーだから持久力なきゃそりゃやっていけないけどさ。
今日も私が寝ている間、朝走っていたのだろうか。
「夕ご飯期待してます!」
「何が食べたい?」
「んーー、炒飯」
「誰かさんの得意料理はやめて」
「ええー俺さんが作る炒飯が食べたい」
何回も作ったことはあるけど。その度に御幸先輩より美味いっす!とは言われるけど。
なんか一々御幸と比べられているのが癪だ。ていうか御幸の炒飯食べたことあったんだねって最初の頃思った。私は食べたことはない。食べる機会もなかったし。
「御幸と比べない?」
「御幸先輩?」
「栄純いっつも炒飯作ると御幸と私比べるじゃん」
「……そうでしたっけ?」
眉間にシワ寄せて思い出そうとしてる。うわあ、気づいてなかったのか。天然か、ほんとに。
「でも、さんのが美味いっすよ!」
「ほらまた比べた!」
「別に良い事言ってるんだから良いじゃねーですか!」
「御幸御幸煩いんだもん」
「嫉妬ですか?」
「嫉妬するほど仲良いんですか?」
そう言えばまた栄純は考える。良いか悪いかで言ったら多分良いんだろう。今でも。
けど、素直に良いとは言いたくないみたい。ぐぬぬ、って。面白い。
栄純の胸に頭を預けて呟いた。
「私は仲良いよ」
「なっ、」
あ、心臓の音、ドクってはねた。目を閉じて身を委ねるとよく聞こえる。
別に、私も良いか悪いかで言ったら、どちらかというと良い、くらいの仲だけど。今では連絡はたまに、くらい。嘘はついてない。
「俺ぜってーあの人に負けたくねーっす」
「今日試合だっけ」
「そうっす」
そうかー、がんばれー、あまり興味なさそうに呟くと栄純の私に回っていた腕が更にキツくなる。
「見ててくださいよ」
「家にいる時はいつも見てるよ」
「俺のこと応援しててくださいよ!」
そんなの当たり前じゃん。好きな人の応援しない人が何処にいる。
って、自分でもちゃんと思ってるけど、何故だか素直になれないのは、どうにもできない。
「まあまあしておくね」
「えー!」
不満そうにしながら家を出る栄純をいつも通り見送った。
大丈夫大丈夫、試合前に送るメッセージは、直接言えないかわりにいつも通り素直に送るから。
目覚まし