ア・ラ・モード
「ちょっと
「?」
「目の前で盛大なため息吐かないでください。私の幸せまで逃げそう」

ランチタイムに向かいに座って最近ハマっているらしい手相占いの本と自分の左手を見比べている同期の子。そろそろ運命の人が現れてもおかしくないとこの前言っていた。

「そんな吐いてた?」
「うん。何、また当たらなかったの?」
「実は入ってないんじゃないかと思い始めてます」
「ふーん、頂戴」

私が開けたポテトチップスに手を伸ばす。流石に飽きてきたな、これ。
当たるまで絶対買い続けると決めたもの。これである。この油の塊。プロ野球チップス。
なんと、先々週から発売されている今シーズン第二弾の付属カードには、彼がいるのだ。

「ちなみに今日は誰が当たったの?」
「成宮鳴」
「え、いいじゃん成宮鳴」
「私は沢村栄純が欲しいの」

この間の雑誌然り、私は本当に独占欲が強いんだと自覚する。第二弾にラインナップされていると小耳に挟んでから、私は仕事に行く前にコンビニでいつもこれを買う。
勿論家には持っていかず、職場のデスクの引き出しにカードが溜まっていく。
その中には栄純は一枚もないのに、成宮くんはこれで二枚目だ。御幸は一枚あったっけ。

「ほんと好きだよね、なんか意外」
「え?」
「騒がしい人好きじゃなさそうだもん。沢村ってなんかマウンドでいつも騒いでるイメージ」
「……まあ、そうだね」
「彼氏も騒がしいの?」
「え、う、うん。かな」

私の彼氏が、その沢村栄純だってことは、高校の友達、先輩後輩以外は誰も知らない。どこまでの人に言えばいいのかがわからないし、言えばたちまち広まっちゃうのも怖いし。決して口が軽そうだから、と思ってるわけじゃないけど線引きが難しいので誰にも言ってない。

「やっぱ自分に持ってないもの持ってる人に惹かれるのかなー人間って」
「………」
「私はどんな人が迎えに来てくれるんだろ」

今さっき人にため息吐くなーなんて言っていた割に、盛大にため息吐いてますけど。
自分にないもの、か。確かに栄純は私が持ってないものを沢山持ってる。性格なんて真逆だと思う。でも、だからこそ惹かれたのかも。
ポテチを一枚とって口に運ぶ。

「……ていうか
「ん?」
「最近……、……まあいいや、何でもない」
「え、何」
「何でもない。成宮いらないなら頂戴。あと御幸も頂戴」

一体何を言いかけたんだ、気になる。
けど大したことじゃないのかな、と私はとりあえず今持ってる成宮くんのカードを渡した。持っててどうするんだろう。って、それは私にも言えるか。

今日のナイトゲームは快勝だったらしい。
相手は二枚も出てきた成宮くんだったけど、投手戦になった中、味方が見事ホームランで1点を挙げ、そのままゲームセット。
どうやら成宮くんが登板している時に栄純も登板して勝つことは久しぶりらしくて、すごく嬉しそうにして帰ってきた。私を見るなり抱き着いて離さない。
中々出ない栄純のカードに最近イラっとしてたけど、私まで嬉しくなってきた。

「次も勝ちます!」
「うん、応援してる」
「そろそろ見に来ません?最近来てくれませんよね」
「その内ね」
「えー」

球場に足を運ぶのは、あまり好きじゃない。騒がれてるのを見るのが嫌だから。これもただの嫉妬なんだけど。けどここにいる栄純は私しか知らないから、優越感。
夕ご飯用意してあるから食べよう、とキッチンに足を向けた時、ちょっと、と腕を掴まれた。

「何?」
さん、太りました?」

部屋の中なのに、冷たい風が吹いた気がした。
何の躊躇いもなく栄純は真っ直ぐ私の目を見ている。
ふと、……え?太ったって、言った?

「なんかこの辺。柔らけーけど…」

私の二の腕をふにふに触る栄純に悪気はないんだろうけど、放心状態だった私はだんだんと怒りのボルテージが湧き上がってきた。

「……れの、」
「?」
「誰のせいだと!思ってんの!!」
「……!?俺のせいですか!?」
「そうだよ!ばか!」
「じゃあ俺どうしたら……!?」
「どうもしなくていい!」

腕を振り払ってあたふたしてる栄純をおいてリビングに入る。
大きな音を鳴らしながら夕ご飯をテーブルに並べている間、栄純は周りをウロウロする。
あなたが中々出てくれないからこうなってるんでしょうが。

「どうぞ召し上がれ」
「………」

並べられた夕ご飯は、一人分だけ。いつもと変わらず私だって食べようと思ったけど、太った、だなんてハッキリ言われてしまえば意地張っちゃう。ていうか、昼間同期の子が私に言おうとしていたことってこのことだったのかも…。

「いっ、一緒に食べやしょう!」
「食べません」
さん超痩せてる!食べた方がいいっすよ!」
「もう遅い」

まったく。デリカシーがない。あるところはあるけどないところはない。言われるまで気付かなかった私も私だけど。買っても買っても栄純は出ないしこのまま太るのも嫌だし。もう諦めよう。諦めてダイエットしよう。
ソファーに座ってテレビをつけるとなんとタイミング良く、丁度ダイエット関連のバラエティー番組が。クッションを抱えてそれを見ていると、近くでガサゴソしている音が聞こえる。見れば栄純が鞄を漁っていた。

「……何してんの?夕ご飯食べないの?」
「今日なんか配られたのいります?スポドリとー、お菓子……」
「いるわけな、……」
「あ、そっかそっすよね……!」
「いる!」

とにかくご機嫌をとらないとと思ったのか、普通ならありがた迷惑なものを出してきたけど、ちらりと鞄の中に見えたそれを私は見逃さなかった。

「え、食べるんすか?あ、スポドリの方?」
「違う。そっち頂戴」

片手にスポドリ、そして片手に私が買っても買っても運は傾いてくれないプロ野球チップス。
私が指差した方を栄純は首をかしげながらも私に手渡す。
ポテチが入ってる方の封は開けずに、私は付属のカードを引っぺがして中身を取り出した。

「……きた!」
「??」
「栄純!」
「はい?」
「きた……!!」

大元の方はあげる、と栄純に押し付けて、私はついに出たそのカードを両手で持って目に焼き付ける。実物だ、本当に入ってたんだ……!幻じゃなかった!
一体何に喜んでいるのかわからなそうにしている栄純にほら、とカードを見せた。

「おお、俺だ……!」
「やばい、嬉しい……!」
「……さん、俺にそんな笑顔になることぜんっぜんねーのに」
「だって出なかったんだもん!」
「買ってたんすか?いやでも、今俺、なんかすげー複雑……」

んんんー、と頭を捻る栄純をよそに、私はカードに印刷されているその人ばかりを見ていた。
このことに恥ずかしくなるのは、我に返る数分後。
お菓子