ア・ラ・モード
オフシーズンになると毎年みんなで集まろうっていう企画がグループラインで始まって、それに私もいつも通り参加する。だけど今年はちょっと規模を大きくして、私たちの代と栄純達の代で集まろう、なんて話に。
お風呂から上がってきた栄純にそのことを話せば、栄純はまだ知らなかったようで、楽しみっすね!と言いつつすぐに顔を顰めて、また会うのか……と。御幸のことかな。今シーズンは随分苦しめられたみたいだし。

「楽しみじゃないの?」
「まあ、それはそうっすけど……」
「御幸がくるかはわからないよ?いつもほとんどこないし」
「そうなんすか?」
「うん。忙しいんじゃない?」

隣でしかめっ面のままの栄純の頬に手を当てた。熱ってるなあ、あったかい。ていうか、髪ちゃんと乾かしてないな。風邪ひくよ、全く。

さんは、会いたい?」
「誰に?御幸?」

私の手に栄純の手が重なる。コクコクと頷く目は真っ直ぐで、何を今更そんなことを聞いてくるのか。よほど自分が敵わない相手だと思い知らされたのだろうか。私、今シーズンの栄純の成績は秒で答えられるけど、御幸の成績はまるで知らないのに。
でも、ちょっと意地悪したくなってしまった。

「会いたいかな」
「!!」
「だって全然会ってないし」
『さてお次は今シーズン盗塁阻止率ナンバーワンの……』
「あぁあー!!!」

ついていたテレビは消されてしまった。多分、御幸のことだったから。重ねられていた手も離れ、やっぱり意地悪しなければよかったとちょっと後悔。

「ダメっすよ!絶対ダメっす!!」
「わかってるよ……」

ソファーに座る私の前に半分のし掛かるように迫る栄純。だって特番で美人なタレントさんと仲良しこよししてるからさ、そんな人相手じゃ私は敵わないし、嫉妬したんです。

「あの人相手じゃ、敵わねえし……」
「え……」
「い、いや!今は、って話で!その内絶対あの人だって俺が抑え…」
「栄純」

萎れていく栄純が繋げる言葉に、栄純も私と同じようなことを思ってくれていたんだなって、嬉しくなってしまった。ごめんね栄純。
バツが悪そうにこちらを見る栄純。でもそこからは退いてくれないらしい。

「今度の集まり、隣にいてね」
「……?はい!もちろんです!」
「ちょっ重い!」

私の声も聞かずに、というより聞こえないフリをして私に寄りかかるこの重さに心地よさを覚えているから、それがきっと栄純にも伝わっているんだろう、一向に退くことはなくてそのまま愛に沈められた。



***



きっと、あの時私がいったことなんてすっかり忘れているだろう。あんな堂々と首を縦に振ってくれた栄純が、めちゃくちゃ遠いところにいるんだけど。むしろ、端と端なんですけど。
それもこれも、

「あんたのせい!」
「久しぶりでそれはなくね?」
「隣いてって言ったのに……」
「独占欲つえーよなおまえ、昔から」

春市くんも降谷くんも、とても久しぶり。栄純からしたら倉持やゾノが久しぶりなわけで、あの栄純が騒がないわけないとは思ったけど。でも、この男が栄純に水と見せかけて日本酒飲ませたのが悪い。いくら栄純がお酒強いって言ったって、水と思って勢いよく飲んだのが日本酒ってそれはあんな風にどこかの大学生みたいなノリになっちゃうよ。

「みなさんお酒進んでおりますかー!!あ、そこ!さんに何かしたらこの沢村栄純の豪速球が飛んでくからな!!」
「はいはい」

めんどくさそうにあしらう御幸に栄純は小型犬のような威嚇を見せる。威嚇してないで私が心配ならこっちきてよ、もう。
そんな栄純を見て向かいに座る唯が眉を下げて笑った。

「沢村くん変わらないね」
「そんなことないよ、どんどんかっこよくなってるよ」
フィルターな、それ」
「うるさい」

あんたなんて来シーズンには栄純にこてんぱんにされちゃうんだから見てなさいよ、ほんと。
ていうか、栄純今日一緒に帰るのかな。あれ二次会に連れてかれちゃいそうな気がするけど。
ほんと、どこ行っても人気でいっつも輪の中心にいるんだから……。

「っしゃーー席替えすんぞー!!」
「合コンかよ!」

酔いが回ってる連中のおかげでこういうノリになるのは体育会系ならではかな。そう思うと栄純のあれは至って普通で、隣にいるこいつの方が珍しい部類かもしれない。
めんどくさいと思いつつ立ち上がって、あまり話せていない春乃ちゃんの方へ向かってる途中だった。

「おお!?なんだ!?」
「……停電」

そういえば、来る時雨は降らないものの雷が鳴っていたな。周りが騒がしくてすっかり忘れてたけど、今は雨降ってるのかな。帰り、タクシーがいいな。だとしたらやっぱり栄純も一緒に連れて帰りたい。

「ちょっ触らないでよ!」
「わーすんません!」

何をしてるの、栄純……。
幸子に何をしようとしたのか。ていうか、暗闇に乗じて?私がいるのに?酔っててもしていいことと悪いことがあるんじゃないの、もう絶対二次会連れて行かない。 何するかわからない。飼い主がちゃんと連れて帰らなきゃ。放飼はダメだ。

「あれ、違うな……」
「栄純くん、先輩探してるの?」

今のは、春市くんの声だ。席替えを試みていた時だからさっきいた場所とは違うところから声が聞こえる。
栄純はそうなんだけど…、って、ずっと私はあちらこちら手探りで探しているらしい。誰も何も見えない暗がりの中、ちょっと無謀じゃないですかね。

「、!」
「あ、いたさん」

不意に肩を軽く触れられて、ぴくりと動けば確認するように腕から肩にかけて何度も掴まれ直された。それだけで、わかるものなのかな。女の子って、幸子はすぐに声出したけど私の他にも春乃ちゃんと唯がいるし。まあ、あの二人も間違えられたまま何も声出さないとは思わないけど……。

「……あれ、さんですよね?」
「な、なんでわかったの……」
「なんで…?んー……わかりますよ!」

声が真横にきて、栄純に包まれる。猫っ毛が頬にあたってくすぐったい。肩触っただけで、わかるのか……。酔ってるのに。酔ってるよね?
私から離れた栄純は私の顔をペタペタと触る。一体何がしたいのか。

「……、」
「…へへっ!」

唇をなぞられてから、アルコールの香りがふわっと鼻を掠めて、柔らかい感触がした。栄純だ。
やだな、もう。これだけで色々許してしまいそうになる。

「おーい沢村いちゃついてねーかー!?」
「いちゃついてちゃ悪いんすか!暗闇に乗じてさんに迫る奴がいないよう守ってんですよ!!」

だったら、ずっとこの暗闇のままでもいいや、なんて。
栄純に腕を回して体を密着させたところで明かりがついて、思い切り突き飛ばしてしまったことは謝ります。
停電