ア・ラ・モード
映画を見に行くことになった。メンバーは唯とゾノと倉持。なんだか異色のメンツだけど、この代の野球部ラインが稼働して、ゾノがただ券手に入れたっていうから見れる人を募ったらこのメンバーになった。彼女といけよ、なんて言われてたけど生憎ゾノには今は彼女がいないらしい。
練習に出た栄純に電話をしてもしかしたら栄純の帰りより遅いかもしれない、と伝えた。

『了解っす!じゃあ今日は俺が夕飯作りますね!』
「ほんと?ありがとう」
『誰と行くんすか?』
「唯とゾノと倉持」
『珍しいっすね?』
「ね、ゾノは結構久しぶりかも」
『ゾノ先輩俺も会ってないなー……あ、休憩終わるんで、じゃあいってらっしゃい!』
「うん、栄純もいってらっしゃい」

さて、今日は何を栄純が作ってくれるんだろう。先にある映画よりもその後の夕ご飯の方が楽しみにしている自分に若干呆れつつも、もし夕ご飯に誘われたら断ろうと決めて家を出た。
と、そこまではいいものの、急遽ゾノ本人と唯が来れなくなってしまったらしい。ゾノは電話からしてすごい風邪っぽかったけど、唯は多分、本当に憶測だけどおそらく彼氏。優先順位、私たちが下か。当たり前だけど。

「どうする?」
「このままはい解散、はなぁ。まあ、沢村に俺がとやかく言われんのも嫌だからそれでもいいっちゃいいけど」
「いや、言わないでしょ栄純は……」

あの栄純だ。そりゃあ私も嫉妬してほしい、って常日頃思うしたまーに妬いてくれるけど、基本的にはとやかくなんて言われない。
じゃあ映画見る?タダ見じゃないけど。俺あれが見てえ、私はあれが見たい、とはたから見たらドライなやり取りをしていたと思う。
結局見たい映画をじゃんけんで決めて、まさか格闘ものを見る羽目になるとは。私は南国物語という犬たちの映画が見たかったのに。
あまりにも面白くなさそうな顔をする私に倉持がドリンクを奢ってくれたので、仕方ない。許そう。

「つーかお前らっていつまで同棲してんだ」
「いつまでって、私はずっとしてたいけど」
「次があんだろ、同棲なんて中途半端な」
「いーの。今決断させたら悪い答えになるかもしれないじゃん」
「待てば良い答えになんのか?」
「それは、栄純が決めること……」

私から、栄純にそれっぽいことは言えるわけがない。もし言ったら、まだ違うどころか、そういうことは考えてないからじゃあ他の子と、って、なりそうじゃん。きっぱりそう言わずとも、絶対困らせちゃう。考えてなさそうだからこそ私からは言えない。
頑なな私に倉持はそれ以上何も言わず、始まった映画に集中した。
それが意外と面白くって、倉持によると前作がDVDにあるらしいからそれを倉持と別れた後にレンタル屋さんで見つけてから帰る。扉を開けると部屋はすでに暖かい。

「あ、さんおかえりっす!」
「ただいま」

なんか、新鮮だな。栄純が先にいて夕ご飯を作ってくれているなんて。
キッチンに立って、多分クックパッドか何かと睨めっこをしながら玉ねぎを包丁で切る前に自分の手を包丁としてイメージトレーニングしてる。大丈夫かな。

「栄純」
「はい?今ポトフとやらを作ろうとして、」
「今日結局倉持と二人だった」

どんな反応をしてくれるか。多分いつも通り、そうなんすね!楽しかったっすか?とかだろうけど。もしかしたら妬いてくれるかもしれない。

「倉持先輩?また珍しい!」
「………」
「まだ格ゲーマニアなんすかねー」
「……倉持に勧められたDVD、一緒に見よう」
「借りてきたんすか?見ましょう!」

なんて思った自分がやっぱり単純だった。いつもと変わらない。全く私に嫉妬なんてしないんだ、この人は。まあ、栄純の知らない相手ってわけでもないから信頼されてるってことなんだろうけど、それはそれでなんだかな。
もし栄純が唯か幸子と故意でなくても二人で出かけてたら私は嫌だけど。信頼してないわけじゃないけど、なんか嫌だ。ある程度妬いてほしい。
そんなことを一人で考えていても仕方ないので栄純が作ろうとしていたポトフの続きを私が代わろうと包丁に手を伸ばしたところ。

「……え?」
「?」
「あれ……?」
「何……?」
「……………」

まっすぐ私と目が合っているはずなのに、どこか焦点が合っていない気がする。
一先ず包丁に伸ばした手を止めて栄純の前まで歩み寄って瞳を覗き込んだ。

「どうしたの?大丈夫?」
さん!!!」
「!?」

突然目の前で大声を出されてがしりと両肩を掴まれたものだから驚かないわけがない。さっきのどこを見てるんだかわからなかった瞳にはしっかりと私が映る。
ポトフ、最後まで栄純が作りたいとか?

「それはダメっすよ!!」
「え、ごめん、じゃあどうぞ……、鶏肉は半分に切ればいいから、」
「ちがーう!!!」

ブスっとしてる。怒っているというよりは、不貞腐れてるに近い?
何が違うって言うのよ、ポトフじゃないなら栄純が怒る理由なんて私には都合のいいことしか考えられないんだけど。

さん俺と付き合ってるんですよね!?」
「う、うん」
「だったら他の男!ましてやチーターという獣と一緒になんて!」
「それ、褒めてるのか貶してるのか……」
さんは俺が他の女子と二人でいてもいいんすか!」
「……それは嫌」

都合のいいことであってたらしい。触れちゃいそうなくらい詰め寄る栄純に首を振ると、栄純はふん、と鼻を鳴らす。

「自分がされて嫌なことはしない!わかりましたか!」
「……嫌だった?」
「二人はダメっすよ!二人でさんの隣にいる男はこの沢村栄純ですからね!!」
「………」
「わかりました!?」
「は、はい」

よーしよし、と栄純はやっと私を離してうんうんと頷く。さんは自分のことをわかってない、って。
一番わかってないのは栄純の方だ。きっと私の胸がうるさいことも、気を抜かしたら顔が緩んでしまうのを必死に耐えていることもわからないんだろう。