紅茶にミルクを入れてかき混ぜながらテレビを見ていると、御幸に綺麗に打たれて悔しそうな栄純が映る。んんん、1打席目は抑えたんだけど。栄純が悔しそうにしていると私も悔しい。
帰ってきたら慰めよう。……できたら、だけど。
一応、試合自体は勝てたけど栄純は納得してなさそう。そもそも高校の時から勝った試合に自分が満足いく投球ができなければ毎度毎度猫目になっていた。御幸に球受けてやってよってコッソリお願いしたなあ。私が栄純の事を好きだって、栄純にバラそうとしたのは今でも根に持ってる。
そろそろ帰ってくる頃かな、と夕飯の準備をし始めたところ、予想通り玄関の扉が開く音がした。
のそりと入ってくる栄純、やっぱり何とも言えない顔してる。
「おかえり」
「……」
「打たれちゃったね」
「……」
「でもその後ちゃんと抑えてたじゃん」
栄純はついたままのテレビをじっと見据えてる。とりあえず鞄、降ろせばいいのに。
テレビは今日の試合の速報だった。悔しそうにしてる栄純と、やってやったと言わんばかりの御幸。これ以降はちゃんと抑えてるのに。どうしてもテレビは御幸メインになる。顔か。
「栄純」
「……さん」
「はいはい」
「すげー悔しい」
「そうだね」
低い声が部屋に響く。真面目な時の栄純は、本人にそのつもりはないと思うけどいつもおちゃらけてる時とは全く違って、ああ、この人はやっぱりプロ野球選手なんだ、って実感する。
「俺、まだまだっす」
「うん」
「もっと、もっと強くなりたい」
エースにこだわる栄純は、誰にも打てないようなピッチングができるまでずっと満足なんてしないんだと思う。ずっとまっすぐなその眼差しに少し寂しさは感じるものの、頑張れ、と応援は勿論したくなる。
「ねえ栄純、ここで問題です」
「え?」
「栄純が強くなる為には、何が必要でしょう?」
突拍子もなく栄純の顔の前に指を立てて出した私の問題に、戸惑いつつもええっと…と律儀に考えてくれる。あ、いつもの栄純に戻ってきた。
「技術!」
「それはそうだけど、そうじゃなくて」
「えー難しくないっすかー?」
「簡単簡単」
むむむ、ってまた真剣に考えてる。私としてはすんなり答えてほしいんだけど、ヒントないと難しいかな。栄純に必要なもの。それにピックアップされていたい。きっとされている。だから問題に出したんだ。
「俺に必要なもの……うーん、技術と、持久力と……」
「いや、持久力はもういらない」
「いりますよ!目指すは先発完投型!」
「もう投げきれる体力はあるでしょ……」
「まだまだ!」
いや、あなたマラソンのランナーでも目指してるんですか。あなたが目指してるのは球団が誇るエースになることでしょう。一試合を投げ切ることはプロに入ってから早々ないことだけど、それだけ信頼されるような投手になりたい、ってことなのか。本当に、夢が大きい。
けど私が今欲しい答えはそうじゃなくて。
「キリがないのでヒントです」
「あざっす!」
「栄純は、それがなきゃ生きていけません」
「そんな大事な!?」
あ、やっと鞄を降ろした。降ろしたというか、落ちた、だけど。ゴトっと鳴る荷物。下の階の人に響いてないかな。
栄純はあからさまに驚いた後、再び考え始める。と、炊飯器のメロディーが聞こえてきた。
ご飯が炊けたみたい。すると栄純が、あ!と声を上げた。ヒントになったのかも。
「わかりやした!!」
「じゃあ、答えをどーぞ!」
手を後ろで組んで、確実にこれでしょうと言わんばかりの栄純の答えを待った。
すると栄純は私を通り過ぎて、陽気なメロディーが鳴っていた炊飯器まで歩く。ぱか、と開けると炊けたばかりで湯気が立つ。
「これですね!!」
「………」
「ご飯!」
「……それだけ?」
合ってるけど、合ってない。不満げな私に栄純はふるふると首を振った。そして得意げに言う。
「さんが作るご飯!」
「よろしい」
炊飯器の蓋を閉じて喜ぶ栄純。私も心の中ではそれくらい喜んでるけど、恥ずかしいので内に秘めたまま。
誰よりも美味しそうに食べてくれる栄純にしか、私だって心を込めて作らないんだから。特別だってこと、ちゃんと自覚してるのかな。
「そういやお腹空いたー!」
「忘れてたの?」
「打たれた悔しさで……」
「栄純らしいけど……」
「ぬぁー!食わねばやってられません!さん!早く!」
「ていうか、手洗った?」
「あ」
ほんと、すぐに一つのことで頭がいっぱいいっぱいになっちゃうんだから。
私のことで頭がいっぱいになる時間が多くなればいいのに、なんて。
夕ご飯