あまりもの

「実弥さん!」

爆発音に鬼の気配を察知したらしく、煙が立ち上るそこへ屋根を伝い走る途中雪生と合流した。おそらく今向かっている箇所に鬼は何匹かいる。群れないはずだが那田蜘蛛山で聞いた一件もある。
目的の場所へ近付くと、既に燃え盛る家屋の手前で鬼が今にも人に襲いかかろうとしていた。屋根から飛び降りる瞬間、右足に力を入れその勢いで反動をつけ刀を抜き鬼の頸に切りかかった。血飛沫が飛び散り足元にゴロッと頸が転がる。

「……なんで俺、斬られてんだァア??」
「立てるかァ」

鬼の戯言を無視して間一髪のところで助けた婆さんを支えるように立ち上がらせた。まだ複数いる気配がする。婆さんを側にいた連れに任せ、俺は周りの鬼を狩っていくつもりだった。案外すぐに鬼が出てきてこれで終わりなのかと思った。今まで派遣された隊士はこの程度の鬼の気配を察することもできなかったのかと気にはなったが、ともあれこれで一ヶ月も滞在することはなくなった。

「雪生、二手に、……!?」

さほど強い鬼でもないことは気配でわかる。強ければ、例えば上弦の鬼であるならば禍々しい気配を醸し出していることだろう。しかし、連携はせずに逃げ惑う一般人に被害がないようそれぞれ討伐していくと告げようとした時だった。今まではなかったその気配に身の毛がよだった。この辺りではない。ここよりも幾らか離れた場所だ。それも、随分と馴染みのある方からだった。

「……実弥さん、」
「周りの鬼、頼んだ」

妙な胸騒ぎがした。確かに、そこには紛れも無い上弦の鬼がいるのは確かであった。だが、それ以外の、何か別の夥しい空気が流れているような感覚がした。同じく気配に気付く雪生へ指示を出し、俺は生まれ育った長屋の方へと走る。偶然か必然か、嫌味に粋なことをしやがる。
見えてきた長屋からは、住んでいた人間がこちらへ逃げるように押し寄せてくる。雪が積もる中、裸足のままの奴もいた。その流れに逆らいながら、俺は忌まわしいそいつの元へ向かう。

「…………」

居場所は、どういうことか俺が住んでいた部屋そのものの場所だった。今は誰が他の奴が住んでいるのか、空き部屋なのだろうか定かでは無いが、虫唾が走った。
戸を開ければすぐそこにいる。そう確信して、勢いよく襖を開けてから目で捉えるよりも先に感覚で察知したその鬼へ斬りかかった。

「っこらこら!ただいまがないなんて、躾がなってない子だねえ」
「っ!、」

そいつは、人の家で悠長に茶を沸かしていやがった。飲めもしない癖に人間のように振る舞うその姿に殺気立った。斬りかかる俺の攻撃を茶を沸かしていた机を使い交わし、ボロボロになった机が畳に広がり茶が染み込んでいく。畳に足を滑らせ踏み留まる。

「全く、茶くらい飲ませて、!」

話なんて更々聞く気は無い。相手の調子にはまったらこちらの分が悪くなるだけだ。続けざまに型を繰り出し頸を狙うが、それよりも早く奴は花札のようなものを数枚飛ばし、相殺した。

「(花札……)」
「さっきぶりねえ、鬼殺隊の風柱さん」

花札を顔の前で器用に指に挟み、薄汚い目で笑うそいつの顔に見覚えはないが、声にはあった。ただ、それに気付くと同時に、全身が震えがった。怖さではない。あの時一緒にいたはどうなったのか、嫌な予感しかしなかった。夥しい感覚がしたのは、その所為でないと思いたかった。だが、そんな都合のいいこと、鬼が見逃さないはずはなかった。そういう生き物であった。

「はいこれ、なんでしょうねえ」

不気味な笑みを見せながら、鬼は一枚の花札を俺へ見せた。そこには信じられないが、が閉じ込められているようだった。絵のように見えるが、本人なのであれば、血だらけなのはこいつがそうしたのか。
俺は刀を握り直し、考えるのはやめて再び鬼へ右足を蹴って間合いに入った。

「駄目駄目、話をしましょうよ」

鬼の腕を切り落とそうとする前に、背中から伸びてきたもう一つの手のようなものに邪魔をされ床に打ち付けられそうになったが身を捩りかわした。一度距離を取るように間合いから離れる。

「話?ふざけてんじゃねェ。すぐてめェの頸を捻じ切る」
「ええそうねえ。多分普通にしてたら私は殺られそうだわ、あなた黒死牟とそれなりの戦いしていたみたいだからねえ」
「……なるほど、記憶を辿れるってかァ」
「あら、察しがいいのねえ。そうよ、私はその人に触れれば記憶がわかるのよ。あんた、最初は触らせてくれなかったけど、また会えて触らせてくれてよかったわあ」

こいつが俺をこの場所へ誘き寄せたのも、偶然ではないということだった。大方柱を葬る為にあらゆる手段を使ったのだろう。隊士を襲えばここに鬼がいるということは明白になり応援を呼ばれる。柱を呼ぶなら地道に人間だけを神隠しに逢わせ柱自らこの場所へ赴くよう出し抜くという方法だ。
そして、一筋縄ではいかないと見て予め俺の弱点でも使う気だったのだろう。それが、今そいつが手にしているというわけだ。

「柱ってもういないのかと思っててね。やっと見つけたって思ったらそれはもう大事に大事にいたぶって食べないとって思ったのよねえ」
「……」
「しかも貴方、極上の稀血なんでしょう?もうご馳走じゃない。ねえ、取引しましょうよ、私と」

鬼はを持つ別の手から血鬼術か、何枚もの花札を出現させた。攻撃が来ると身構えたが取引と言っただけあり、宙に浮かせたままの花札を俺へ見せた。恐らく、今まで行方不明にしていた町の人間達だ。

「殺してないのよ、でも、今から一歩でも貴方が動けば……、」

宙にばらつかせていた花札を重ね、手にしていたの札を一番上にして纏めた。宙に浮く纏まった花札を、見覚えのある簪で突き刺そうとした。がつけているはずの、あの時買った簪だ。

「この子含めて、全員殺しちゃう」
「……っ」
「私は貴方の攻撃についていける。動いたら、全員纏めて串刺しよ」

その愉快そうな顔に腸が煮えくり返った。技を繰り出し踏み出そうとすればそれを制するように鬼は俺からより距離をとる。妙な真似をすれば、すぐにでも花札を突き刺せるようにだろう。

「娘が大事なんだろう?なら、やることは一つだ」
「……」
「自分でその頸を切って死にな」

鬼は簪の先端を俺に向け、さぞ面白可笑しそうに言い放った。

「最高の死に舞台を用意してやったんだから」

殺気が増していくのが自分でもわかった。だが、安易に動くこともできずに、俺はその場に立ち尽くすことしかできずにいた。


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