make a 浪漫

小競り合い


流しているだけのテレビをぼんやりと見ていれば、目の前にオレンジ色の丸い物体が載っている底の浅い籠がコト、と置かれた。焦点をそっちに合わせると、この前炭治郎の実家から送られてきたと話していた蜜柑だった。
ちょっと実家に用があって、と夜遅くに家を出てさっき帰って来たばかりの炭治郎がこの前一緒に買いに行った炬燵へと私と同じように足を入れる。

「………」
「……ん?」

横に長いこのローテーブル。私が詰めれば炭治郎は幅が狭い方に座らずに済むのだけれど、何も言わずに炭治郎はそっちへ座った為、ジト目で見据えながらいそいそと右端へと身体を詰めた。
私の遠回しな要求に炭治郎は丸くしていた目を細めて小さく笑う。それから一度炬燵から出て私が詰めたことによってできた隣へと腰を降ろした。

「テレビ見てるか?」
「うーん、炭治郎が帰って来たから見てない」
「どういう意味だ」
「テレビより炭治郎ってこと」

隣へ腰を下ろした炭治郎の身体へとさながら猫のように纏わりつく。すん、と匂いを吸ってから顔を上げて口の端を上げた。いつものように、けれども少し呆れながら優しい笑顔を見せてくれるのかと思えば匂いでバレたのだろうか、炭治郎は微かに口を尖らせる。

「……元々そこまでちゃんと見てなかったんだろう」
「あたり~、わっ冷たい!」

へらっと笑う私に炭治郎は炬燵の中でまだ冷えている足を私の脚へと絡ませる。さっきまで外にいたから当然だけど、ひんやりとした足先に逃げようともまるで私から暖をとろうとするように固定されてしまった。

「あったかいな」
「私は冷たい!」
「はは、珍しく冷たいなんて言われた」

はは、って。意地悪く笑う炭治郎に眉を顰めればそれに気付いてごめんごめんと私の頭を撫でながら足を解放する。
今ばかりはいつも温かい炭治郎よりも炬燵の方が温かい。……当然か。
炭治郎は私の頭から手を退け先程自身で置いた蜜柑へと手を伸ばした。綺麗に皮を剥いているのを横目に私はテレビのリモコンを手に取りチャンネルをぴ、ぴ、と回した。

「白いの綺麗にとってね」
「栄養あるんだぞ?」
「じゃあ、程よくとって」

特に惹かれる番組は何もやっていなさそうだ。料理番組とか部屋の大掃除とか、あなた主婦なの? って思うくらいいつも熱心に見ている炭治郎が好きそうなものもやっていない。
退屈だなと思いながらテレビを消し炭治郎の手元を見やる。

「ん、ほら」

皮は剥かれ、言葉通り程よく白いスジが残されたままの蜜柑が私の口元まで運ばれた。口を薄く開くとそっと放り込まれる。指が唇に微かに触れて擽ったかった。

「甘いね」
「うん、美味しいからもう実家にはほとんどないって言ってたよ」
「人気なんだ」

確か、知り合いが毎年蜜柑を段ボール箱でくれると話していた。タダで。竈門家の人付き合いの良さには心から感心させられる。見習うべきところなのだろうけど、私はこうして炭治郎に甘えてばかりだ。甘えてほしい、と話したことはあるけど、基本的には炭治郎も長男癖があるせいか私の面倒を見たがる。
話ながらパクパクとわんこ蕎麦ならぬわんこ蜜柑状態で一つ丸々私のお腹へと蓄えられた。

「もう大丈夫。ありがとう」

リズム良く平らげたせいか、まだ食べられると思われたらしく蜜柑へと手を伸ばす炭治郎へ意思表示をしてから後ろへと身体を倒した。ソファーへと置いてあるクッションを掴み頭へと持ってくる。

「そのまま寝ないようにな。風邪引くから」
「ええ、寝ちゃいそう。あったかいから」

炬燵を買ってから、たまに夜そのまま寝落ちてしまうことが増えた。私を起こすことなく炭治郎が運んでくれるから、結局朝起きた時はベッドの上なのだけれど。ちなみにお姫様抱っこでベッドに下ろされた後、さりげなく優しく唇を落としてくれるものだから、それがされたくて寝たフリをしていることがあるのは私だけの秘密。
もぞもぞと炬燵の中へと身体を入れ込み掛け布団を口元まで覆う。炭治郎を見ると、つまらなそうな顔をしていた。

「君はもぐらか」
「ええ、猫がいい。あったかい場所が好きなだけだから」
「……俺の方があったかいからちゃんとベッドで寝てくれ」
「……炬燵と競り合ってる」
「ほら、出るんだ。もう消すからな」
「きゃ~~」

不服そうにしながら炭治郎は布団を被る私の脇に手を入れずるずると炬燵から引っ張り出した。
寝る間際、やっぱり炬燵はいらなかったな……と、ぼそっと呟いているのが聞こえた。