make a 浪漫

隠し味は隠さない愛


仕事も定時で終わって、夕飯の買い出しをしてから家に戻ると扉を開ける前にすでに灯りがついているのに気付いて目を丸くする。

「ただいま……」
「おかえり」

今日はお店が閉店になるまで仕事だと話していたのに、なぜだかすでに家に帰り部屋を暖めてくれていた炭治郎が私を迎え入れ、手にしていた買い物袋を私から受け取ってくれた。

「早いね?」
「うん。竹雄が変わってくれたんだ。最近早番の日も遅くまで店にいてくれるから、って」

冷蔵庫に牛乳や卵を仕舞い込みながら嬉しそうに話す炭治郎。家族の話をする時はいつもこうで私まで竈門家の仲睦まじさに心温まってしまう。

「竹雄くんもすっかり大人だよね、かっこよくなってきて」
「うちの兄妹はみんな美人だしかっこいいだろう?」
「…………」
「ん?」

洗面所で手を洗いながら少し声を大きくして炭治郎と会話を続ける。ボールが返ってこなくなったことに炭治郎は不思議そうにしているけれど、気付いていないのだろうか。
洗面所から顔を覗かせて冷蔵庫に食材をしまい終えた炭治郎と目を合わせる。

「それ自分にも言ってる?」
「え、……あ、そうなるのか……」

気付いてなかったらしい。いや、自分でわかってて言っていたらどれだけ自信があるのかと思うけど。口元に手をあて真面目に考え込んでいる炭治郎を尻目に洗面所から出て、お揃いにしようと買ったやけにモコモコとしている部屋着へと着替え始める。

「炭治郎は可愛い系のかっこいいだよね」
「それ、つまりどっちなんだ?」
「どっちっていうか……、犬で例えるとポメラニアンで、竹雄くんはー……、ミニチュアピンシャー」
「ミニチュアピンシャー……」
「うんうん」

首を傾げながら、キッチンから着替えている私の側まで歩み寄りテーブルに置いてある携帯で何かを調べ始めた。その間に私は炭治郎が食材をしまってくれたキッチンへと移動しまな板を取り出す。真剣に調べているのは、ミニチュアピンシャーのことだろうか。

「どっちも可愛い系じゃないか?」
「ええ、ピンシャーの方がシュッとしてるでしょ」
「そもそも俺がポメラニアンってどういうことだ」
「そのまま。ねえ、今日オムライス作るね」

最初に会った時はランドセルを背負っていたけど、竹雄くんは絶対にイケメンになるだろうと確信していた。小学校の卒業アルバムに写っている炭治郎とその時の竹雄くんではすでに顔立ちの系統が少し違っていたから。竹雄くんはおそらく葵枝さん似だ。勝手な推測だけど。

「一緒に作るよ」
「え、いいよ。今日私の番だし、折角早く帰ってゆっくりしてって言われたんでしょ?座っててよ」
「一緒に作りたい」

下準備を進めようとする私の隣に炭治郎は立って優しげな声色でピアスをカラリと揺らす。断っても、これはきっと譲らないだろう。後、炭治郎がそう言ってくれるなら私も一緒に作りたい。笑みを零すのを抑えきれられずに、じゃあお願いしますと改まったように頭を小さく下げた。
一つのコンロではスープに火をかけて、もう一つは私が玉ねぎやピーマンを切った後に炭治郎が炒めてくれるというのでそのままお言葉に甘えてその様子を隣で見ながら、思わず笑ってしまった。

「?」
「狭いなって思って」

一人でやっても二人でやっても時間はそんなに変わらないのに、むしろキッチンが狭くなるだけなのに、それがこの上なく幸せだと思ってしまった。
瞬きを繰り返している炭治郎に口元を抑えながら素直にそう伝えれば、炭治郎も頬を綻ばせて笑い返してくれた。
具材が炒まってきているのを見て慌ててご飯を用意する。まるでシェフとその見習いだな、なんて思ってしまった。

「はい、これもお願いします」
「お安い御用です」
「ケチャップです」
「お任せください」

ご飯も炒め、ケチャップも炭治郎の加減で追加されそれらしい匂いが香ってきた。
まな板は片してキッチン台にお皿を二つ用意する私に炭治郎は一度スプーンを取り出して、少し冷ました後に私の口元へそれを運んだ。
もう何度も作っているから間違いは絶対にないのに、まるで私が餌付けされる犬のようだと思いながらもライスを口にした。

「薄いか?」
「ううん、星三つ!お皿をご用意しました」
「よかった!ありがとう」

お腹がいっぱいになる前に心までもが満たされてしまう。ほくほくとしながら用意した丸皿に炭治郎がフライパンから流していく。割合も見事なまでに完璧だ。

「後は卵だな」
「本当上手いよね。お母さんだ、お母さん」
「お母さん呼びはもうやめてくれよ……?」
「しないよ」

同棲を始めたての頃、始める前からも気付いてはいたけど炭治郎はあまりにも主婦力が高いのだ。だから愛と尊敬の意を込めてお母さんと呼んでいたことがあるけどめちゃくちゃに嫌な顔をされてしまったのを覚えている。高校の時は家庭科の時、みんなに『お袋』と呼ばれていたのを受け入れていたのに。
今回も見事なまでにふわふわの卵がライスの上にかかり、無事完成。最後に炭治郎がケチャップで上から私の名前を書いてくれたので、私も炭治郎の分に炭治郎の名前を書くことにした。

「たんたん……」
「お母さんの方がよかった?」
「それならたんたんの方がいい」

バカップルぽいかもしれないけど、今日はそんな雰囲気になりたい気分だった。眉間に皺を寄せていたけど、私が満足気に笑ったのを見たからか、眉を下げて笑い一緒にオムライスとスープをテーブルへ運んだ。

「じゃあ食べましょうか、たんたんシェフ!」
「それいつまで続くんだ?」
「今日ずっと」

お揃いのマグカップ、お揃いの食器、お揃いのパジャマ。それから炭治郎のことが好きな気持ち。これもお揃いだといいなと思いながら、仕方ないな、なんて呆れたように笑う炭治郎と二人で手を合わせた。