一ヶ月半ぶりに始まった学校で机に頬杖をつきながら周りを見渡す。クラスメイトが心なしか以前よりも肌が日に焼けているようだった。
僕もそう思われているのだろうか。あまり外に出かけてはいない方だったけど。
「席離れた……」
グラウンドでは次の授業で体育のクラスがすでにサッカーボールを蹴り始めていた。横目でそれを見ているとガタッと前の席に座りながらげんなりとした声を出した。
「すぐそこじゃん」
「無一郎くんが隣にいるのといないのとじゃ日頃のモチベーションが違うの!」
二学期が始まって最初のホームルーム。心機一転席替えをしようと、ほぼ前の席の人たちの意見だったがずっと席は変わっていなかったのでくじ引きをする事に。前までとは席が隣だったけど、今回の席は少し離れた斜め前だった。僕はの姿が見えるけどの中では振り向かなければ見れないし、問題なのかもしれない。
机に手の平を叩きつけて詰め寄るに身を引いた。
「いても集中できないって言ってたでしょ」
「……それはまあ、そうなんだけど」
夏休み、僕に向かってそばにいると集中できないとかなんとか頬を染めながら口にしていたくせに、なんの為に学校に来ているのだろうか。
指摘すれば口をまごつかせてバツが悪そうにしている。
学校は始まったもののまだ夏のような暑さは変わらなくて、の髪はお揃いだと見せつけてきた髪ゴムで一つに纏められている。
「でもしょうがないよね、好きなんだから!」
何が仕方ないのか、呆れた僕にはふわりと笑ってみせた。
「それさ、やめてくれない」
「それ?」
「恥ずかしいから。後ろで友達笑ってるけど」
「え!」
気付いていないに後ろを指差せばそれにつられても振り向いた。さっきからずっと、いつもとよく話している子達がこっちを見て口角を上げているのだ。
付き合っている、と知られているとはいえ公然と気持ちを伝えられるのは僕には慣れ親しんだことではない。
一つ息を吐いた僕には席から立ち上がり、友達の方へと駆けていった。
午後0時三十五分。
今日は昼休みに一緒にご飯を食べる日だった。中庭は暑いから、と空き教室に入って弁当箱を広げていた。
昨日やってたテレビだとか、今日あった授業で先生がやたら機嫌が良かったから何かあったのだとか、は一人でよく喋る。それがいつもの光景なのだが、だからこそが黙った時は何かがあるのかとそっちを向けば、案の定箸を止めていた。
「なに」
「あっ、いや、美味しそうだなあって思って」
じ、と僕……ではなく机の上に広げた弁当箱を見ていたが我に返ったように小さく笑いながら呟いた。
「どれ?」
「卵焼き。チーズ入ってる?」
「はい」
彩り豊かに詰められている弁当箱の中から目当てのものを箸で摘んでの口元に運んだ。
一瞬は驚いていたけど、その後すぐに少しばかり照れながらも口を開いたのでその中へ入れ込んだ。見るからに美味しそうに頬に手を当てて味わう姿に笑みが溢れていたことには気付かない。
「美味しい!二倍美味しい!」
「よかったね」
「うん。料理上手だよね、お母さん」
「まあ、そうだね」
の言う通り、多分母さんは料理が上手い方なのだと思う。毎日とは言わずともころころ弁当箱の中に入っているおかずは変わるし飽きもしない。まあ、毎日同じだったとして何か文句があるのかと問われたら特にないとは思うけど。
「私も頑張るよ!」
「なにを?料理?」
「うん!」
「なんで?」
僕に宣言することなのだろうか。どうでもいい話をよくしているからこれもその例に習って思い付きを口にしただけなのか。首を傾げて目を細める僕にはえへへ、と頬を綻ばせた。
「花嫁修行」
「……あっそ」
深い意味は、おそらくあるのだろう。意外とよく考えているのだ、は。
ただ、それを素直に受け取れもせずにから目を逸らし、にさっき分け与えた卵焼きを口にした。自分では食べてなかったけど確かに美味しい。これと同じようなものがにできるなら、まあ、それはいいことかもしれない。あくまでも相手は僕の場合、だけど。
午後四時十六分。
「アイス食べて帰ろう!」
今日は部活がなく帰り支度を整えていたら、またしてもは今朝のように机に手の平を叩きつけて僕に詰め寄った。
「いいけど……」
そんな勢いで頼み込まなくても付き合うけど、頷いた僕にはわかりやすく顔色を明るくさせて喜んでいる。
帰りにコンビニに寄って何かを食べることなんてなんども会ったのに、はいつも同じ反応だ。そんなに嬉しいものなのかと疑問に思ったりはするけど、聞いたりはしない。それっぽいことをきっと口走るのだろうし。あと、その答えは僕がに対して気持ちを確かめたくなった時にとっておこうと思っている。
学校にいると、僕とは違っては友達が多いから、特に男子と話している時、兄さん曰くその時僕は『怖い顔』をしているらしい。
「まだ暑いね。すぐ溶けちゃいそう」
そんなこともこの子は知らずに、今日もいつもと変わらず能天気に振る舞い、今にも乾いた地面へ溶け落ちそうなアイスに噛り付いた。
「涼しくなってきたらさ、今度は肉まん食べよう」
「いつの話してんの」
日陰にいないと暑さにアイスだけでなく身体ごと溶けそうになるというのに、どれだけ先の話をしているのか。向こう一ヶ月はまだ暑さは続くだろう。
水色のアイスに齧りながら思ったままのことを声に出すとはそれから、と相変わらず一人で話を進める。
「冬はおでんかな。無一郎くんはやっぱり大根派?でもおでんっていつから出るんだろう」
「……」
「春になったらなに食べる?春の食べ物ってなんだろう?」
「食べることばっかだね」
一人でずっと話しているから食べるのが遅くて、同じものを買ったのにのアイスは半分も食べれていない。その内地面に全部落ちてしまいそうだけど、気付いていないのだろうか。
食べることばかり考えているのに目の前のアイスには意識がないあたり、美味しいものを食べるということはもしかしたらの中では重要ではないのかと勘ぐった。
「だって一人で食べるより二人で食べた方が美味しいから」
「……本当は?」
「……二人でいたいだけ」
そんなことだろうとは、思ってはいたけど。
聞いたのは僕だけど、移るから照れながら言わないでほしい。じりじりと地面を照りつけるアスファルトへと視線を向けた。
「やりたいこと沢山あるの。一緒にやろうね」
「できるものはね」
「うん!……あっ」
それならば、夏が過ぎてもずっと隣にいてほしい。僕はのように感情をそうやって表には出したりすることは少ないけど、今まで通りのことをずっと一緒にやっていきたい。
ぼんやりとアスファルトの陽炎を見ていると隣からした慌ただしい声に視線を送る。手にしていたアイスが溶けたらしい。全部乾いた地面へと落ちてあっという間に暑さに溶けいって跡形もなくなくなった。すぐに溶けちゃいそうと自分で言っていたのに半分以上残っていたアイスは棒だけとなっていた。
「勿体無いことした……」
「しょうがないね。食べ、」
「あ!」
半分はもう残っていないけど、少しだけ残っていたアイスをへ向けようとすれば、またしても声を上げた。今度は嬉しそうなトーンで。
「あたりだ!」
貰ってくる、と嬉々としてがコンビニ入った後ろ姿を見ながら、あたりが出たことをほんの少し恨んだ。