千紫万紅

蝶屋敷で働く毎日は、とても楽しい。楽しいし、何より勉強になるのだ。もっと医療について学びたい私には十分すぎる環境だった。人の役に立って生きている、そのことをいつも感じながら暮らせている。本当に、何度お礼を言えばいいかわからないほどあの時助けてくれた不死川さんに感謝している。

「今日一日安静にしていれば大丈夫そうですね、後遺症も特になくてよかったです」
「ありがとう」
「それはこちらのセリフです」

隠が鬼と戦うことはない。だから、いつも死と隣り合わせの隊士の人達に感謝されるなんて、恐れ多いことなんだ。

「あ、」

一通り今蝶屋敷で休んでいる隊士の診断を終えたところで、町へお使いを頼まれたので外に出ると、久しぶりに見た姿が。おお、目が合ったのに逸らされてしまった。相変わらずだ。

「無一郎くーん！」
「……」

手を振りながら駆け寄ると、無一郎くんは足を止めてくれた。少し、いやかなりめんどくさそうに。どうやら無一郎くんは任務帰りらしい。見たところ隊服には汚れも一切ないし、特に怪我をしているということもなさそう。流石です。

「おかえりなさい！」
「ただいま」
「全く疲れてなさそうだね」
「疲れてたらのこと無視して帰ってるよ」
「確かに」
「納得するんだ、自己評価低いんだね」
「違う違う、無一郎くんは”だから無視していいや”って思うかなってことだよ」

私も昔、こういうのあった。仲良い子だからちょっと甘えてもいいかな、のような。もちろん親しき中にも礼儀あり、なのは当然なのだけれど、そういう関係でいられるのもまた素敵な友情。そう、私と無一郎くんは固い絆で結ばれているはずなんだ。
けれど目の前の無一郎くんは眉を顰めている。あれ、もしかして違うの？

「なんで？」
「ええ、私たち親友でしょ！」
「なった覚えはないけど」

無一郎くんと最初に会った時は、無一郎くんは既に柱だった。年が近そうだと思って、気軽に話しかけたらなかなかの毒舌っぷりだった。私より可愛い顔してるのに！って声に出したら一週間くらい無視されたけど。
そのことを不死川さんに話したら、そいつ柱だぞ、と凍え死にそうになる事実を知ったのだ。
屋敷に土下座しに謝りにいったのが懐かしい。ちなみに、今更敬語を使われても気持ち悪いと言われたのでそのままでいる。
そんな無一郎くんと私はもう友達以上、親友として接しているのに無一郎くんの中では違うようだ。

「じゃあ、今日から親友になろう！よろしくね無一郎くん」

無一郎くんの前に、右手を差し出した。前に他の隊士の人が食事中に愚痴をこぼしていた。任務について行ったとき、とても怖かった、と。
でも私にはそれがわからなくて。戦っているところ、私は見たことがないからな。マイペースでちょっと…いや大分毒舌な男の子、というイメージだ。

「いつも一方的だね。不死川さんにもそうなの？」

無一郎くんは私の右手にはスルーのようだ。いつも、というのは、事あるごとに私が無一郎くんに親友を始めよう、というからだ。実はこれが初めてじゃないのです。

「一方的じゃないよ？」
「の中ではでしょ」
「相変わらず辛辣！そういう返しってどこで覚えてくるの？」
「うるさいなあ…ていうか、何か用事があったんじゃないの？」
「え？」
「？」

無一郎くんはキョトンとする私にめんどくさそうに首を少し傾げた。風が吹いて綺麗な長髪が靡く。サラサラだ…。

「ないの？」
「…ないよ？」
「……時間を返して」
「ええっ時間は返せないよ？」
「たまに常識的になるのやめてくれない」

はあ、とため息を吐いた無一郎くん。ふふ、このため息何回聞いてるかな、私。用がなくても話したい人がそこにいたら呼んじゃうよ、だって親友だもの。

「じゃあ今度の時間頂戴」
「うん！いつでも呼んで！」
「まあ、そんな機会あるかどうかわからないけど」
「絶対ある！」
「どっから湧いてくるの、その自信。自己評価低いんじゃなくて馬鹿みたいに高いんだね」
「ううん。約束があると、絶体絶命の時に、まだ死んでたまるか！ってなるでしょ？」

どんな時でも諦めないような、そういうものが一つでもあると人は強くなれる。あの人がそう言っていた。無一郎くんは、少し面を喰らったような表情を見せていた。

「…この約束じゃ大分効果は薄そうだけど」
「ええっ」

ただ、それでもいいと思った

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