千紫万紅

スヤスヤ、スヤスヤ、規則正しい寝息を立てて寝ている。懲りもせずにまた忍び込んだ将来の私の家。確か、異変や自分に危険なことが起きなければ寝ている時に目を覚ますことはないと言っていた。
鬼殺隊に入る前からその習慣は根付いているらしい。危険なところばかりで過ごしていたから、寝れる時はきっちり寝るように気配をどうとか、私にはよくわからないことを話してくれたことがある。

「つまり私がここにいることは、異変でも危険でもないということになるんですよね」
「……」

返事はない。最初に忍び込んで、こうして夜這いしにきた時は部屋に入る前から気付いて起きていたらしく出て行け帰れと怒られたけど、今となっては日常茶飯事となってしまったので起きることがなくなった。
朝なんて、またかと呆れが入るようになった。ブチ切れから呆れに変わったのでこれはもう粘った甲斐があったというものだ。

「傷、消せないのかな」

まるで起きない不死川さんの頬に触れた。深い傷跡が痛々しい。どうにかして、この傷を消すことができたらいいのに。この人、本当に自分が傷つくことに対しては一切の躊躇もない。

「私が代わりになれたらいいのに…」

戦いにもいけないんだから、せめて私がこの人みたいな特別な血を持っていて、役に立てればいいのに。
隊士としての強さも特別。血も特別。刀を振るえない代わりに、血ならいくらでも出せるのに、役に立たない血だから何もできない。

「……」

自分の手の甲に、爪をぐっと立ててみた。これだけでも私にとっては痛いのに、跡が残る傷を自分でつけるなんて、どれほどなものなのか。慣れたって言ったって、痛いものに変わりはないのに。

「！」
「人ん家で血流そうとしてんじゃねェ」

この人がいつも耐えてる痛みを知りたくて、立てていた爪に更に力を込めて引っ掻こうとした。けど、大きな傷だらけのその手に止められた。傷がまるでない私の手なんかよりも、私にはずっと綺麗な手に見えた。

「……」
「身体に何か触れたらそりゃ常人でも起きんだろうがァ」

なぜ…と言った目でさっきまで寝ていたであろう不死川さんを見ると、その答えが返ってきた。なるほど、触れたら起きる。新しい情報を得ることができました。だって私は多分頬触られたくらいじゃ起きない。私の手を離して、そのまま不死川さんは寝返りを打ってそっぽを向いてしまった。追い返さないのかな。それすらめんどくさいのだろうか。

「おい」
「はい」
「何してんだァ」
「文字を書いてます」
「人の背中で遊んでんな」
「……」

いつも背中に物騒な言葉を背負っているから、今日は私の気持ちを背負ってくれたらいい。きっといい夢が見れます。いや、絶対。たまにうなされてるんだもん。夢くらい平和であってほしい。

「伝わりました？」
「全く」
「えー、なんて書いたかはわかりますよね？」
「たりめェだァ」
「不死川さんが帰ってこなかったら、私違う人のものになっちゃいますよ？」
「勝手にしろォ」

またまたそんなことを言って。早く、不死川さんが帰ってくる理由、帰らなきゃいけない理由が私にならないかな。今は屋敷に勝手に上がり込んでいるけど、私はいつだってここで生活する心構えはできてますからね。
不死川さんは特に私を追い出したりはしなそうなので、いそいそと布団の中にお邪魔した。誰かと寝るのって、なんだかとても安心する。

「飯、ちゃんと食ってんのか」
「はい？」
「飯だよ、飯！会った時から変わんねェだろ」
「私の乳がですか？やだ～やっぱ見るところが、ああ！寒い！入れてください～！！ご飯ちゃんと食べてます！もう成長期終わったんですよ多分～！」

不死川さんはそうやって私のことを子供扱いする。身長、少しだけ伸びたと思うけど不死川さんの方がでかくなっていくから、多分私は縮んだように見えているのだろう。
歳は、そりゃ離れてる方ではあるけど、許容範囲でしょう、ていうか愛に年齢なんて関係ない。私の許容範囲は不死川さんの歳とともに変化するんですから。

「不死川さん」

もぞもぞと引っ張られた布団に入り直した分、密着する。背中、あったかいなあ。

「……」
「いつか三人で寝たいですね！」
「三人？」
「不死川さんと私と～、私たちの愛の結晶です！名前、今から考えときましょうか！」
「平和な脳味噌だなてめェはよォ」
「平和な未来を想像しておくんです！」

もう、鬼殺隊の役目がいらないくらいの平和が戻ったら、あなたはどこかに消えてしまいそうだから。
隊士としての強さも血も、この組織がなくなってしまえば、皮肉なことにそれは必要のないものとなる。
だから今から将来の約束をしておかないといけないんです。もし私が必要なくなったら、それはそれでいい。私はあなたに、生きてて欲しいんです。

「……代わりとか、考えんじゃねェ」
「え」
「入れてやってんだからさっさと寝ろォ」
「……」

そっか、起きてたから、聞こえてるよね。
やっぱり、優しいんだ、この人は。なんで不死川さんなんですかって色んな人によく聞かれるけど、その度優しいからって答えてる。色々ありすぎての返答だけど、すごく驚かれる。想像できないって。

「おやすみなさい」

その背中におでこをくっつけた。知れば知るほど優しい一面が見えてくるんだけど、それを知ったらきっとみんな不死川さんのこと好きになっちゃうでしょう？だから、例えば私を入れてくれるために端に寄ってくれたのとか、みんなには言わないでおくことにしているのです。

ずっと一緒にいてください

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