千紫万紅

「私って子供っぽい？」
「大分」
「嘘！」

私は悩んでいた。いつになったら不死川さんは私に振り向いてくれるのかということを。どうしてこっちを見てくれないのか、考えて考えて考えて、答えはこれしかでなかった。

「そんなに子供っぽいかな……」
「わかってて聞いてきたんじゃないの？」

はい、まああの仰る通りなんですけどね。ふろふき大根を手土産に、無一郎くんのところへやってきた私は一緒にお昼ご飯を食べていた。作ったのは私じゃないけど。アオイさんにお願いしたのだ。今日のお昼はふろふき大根、そして私は外で食べてくる、と。

「無一郎くんは年齢よりも大人びてるよね。いや、ませてる…？」
「悪口言いにきたの？」
「そんなそんな、滅相もございません」

ただ、私が子供っぽいかそうでないかは年が近い子に聞くのが一番だと思って。だって年上の方々に聞いたら雰囲気とか関係なく子供！って言うに決まってる。しのぶさんのような大人っぽさが私にも欲しい。化粧でどうにかなるものなのだろうか…。

「あ、ちゃんだ！」
「？甘露寺さん！」

襖が開く音が後ろから聞こえた。振り向く前に聞こえた声は可愛らしいものだった。当たり前だ、可愛らしい人なんだから。
甘露寺さんはなんだか久しぶりだわあって私の隣にニコニコしながら座った。

「元気だった？」
「はい！」

甘露寺さんは、というか柱みなさんそうなのだけれど、蝶屋敷にお世話になることは滅多にないから、会わないことはいいことなんだけど、だからこそこういうなんでもない時に会えると嬉しいものなのだ。

「よかったわあ、ちゃん最近どうしてるのかなあって思ってたところなの」
「ええ～、心配してくれてありがとうございます」
「だってちゃん、私に不死川さんのこと相談しにきたでしょう？あれからずーっと二人のこと気になってるのよお～！」
「わーー嬉しい！お陰様で順調です～」
「何も変わらず順調ってこと？」
「…………」

くっ、恋話でわきゃわきゃしているところにこれまたトゲのある一声が。私も甘露寺さんにつられて頬が緩んでいたけど、顔が硬直した。甘露寺さんは無一郎くんにキュンキュンしているようだ。キュンキュン要素、ありました…？

「……あ、そういえば甘露寺さんはなぜここへ？」

お昼時、なぜ甘露寺さんが無一郎くんのお屋敷へ足を運んだのか。それもお邪魔しますとかなく普通に入ってきた。二人はそういう間柄なんでしょうか？聞けば、そうそう！と思い出したように手を叩いた。忘れてたのか…。

「今夜私が行く場所、無一郎くんが住んでたっていうところに近いから鬼が出やすそうなところを聞いておこうと思って」

どうやら、突然訪れたわけではなくもともと来る予定だったらしい。今夜、任務なんだ。無事に帰ってきますように…。
この場に異色なのは、私だということだ。

「ということで、帰って」
「え、いや！いいのよいいのよ、私がちょっと早く着ちゃっただけだから、二人でゆっくりお話してて！」
「大したことじゃないんで大丈夫です」
「……た、確かに重要度で言えば仰るとおりです……」

任務のことならば、私が邪魔できるわけない。お昼休憩もそろそろ終わってしまうし、食べ終わった食器を持って部屋を出ようとした。

「ちゃん」
「……？」

甘露寺さんはまじまじ私の顔を見つめる。なんか、ちょっと照れる。かわいいから。やっぱり人ってかわいいだけで得するよね、目を合わせてるだけで相手をドキドキさせることができるかもしれないもん。ああ、やっぱり私も不死川さんが惚れてしまうような大人っぽくてかわいい人になりたい。

「悩みがあるのね！」
「えっ」
「聞くわよ、聴かせて！お姉さんが真剣に聞いてあげちゃうから！」

甘露寺さんは、とても楽しそうにしていた。無一郎くんは、とてもめんどくさそうに眉を顰めていた。
顔の前で拳を作ってやってやるわよ、な意気込みの甘露寺さんを前に私は座り直した。隣でため息が聞こえる。
甘露寺さん、顔は大人っぽいというよりはとても可愛い系だとは思うのだけれど、何しろ羨ましいのはその体である。ずるい。私もこの豊満なサイズの胸が欲しい。

「どうしたら大人っぽくなれますか」
「え、大人っぽく？」
「はい、大人っぽくなりたいんです！」
「……ちゃんはそのままでも可愛いけど…」
「いいんです、そういうのはいいんです、大人っぽくならないと不死川さん誰かにとられちゃう！」

大人になるのを待ってなんていられない。だって、私が大人になってもそれと同時にきっと不死川さんはもっと、どんどんかっこよくなっていく。きっとじゃない、絶対そうだ。
だから私が追いつかなきゃいけない。どうしてもっと早く生まれなかったの私…。甘露寺さんに迫る私の傍らで、無一郎くんは銀子ちゃんと戯れ始めた。

「……よし、じゃあ、今度町へ着物買いにいきましょう！」
「え」
「三人で！」
「……こっち見て言ってますけど、その三人の中にまさか僕が入って、」
「るわよ！」

ふん！と鼻を鳴らす甘露寺さん。こんなにウキウキしている甘露寺さんは、私が不死川さんのことを初めて相談しに行った時以来かもしれない。大人っぽくなりたい、の答えに町へ三人でおでかけっていうのはよくわからなかったけど、結構、楽しみだ。

大人とは何か

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