千紫万紅

「不死川さん、しりとりしませんか」
「一人でしてろォ」

今日も不死川さんはかっこいい。男前。逞しい。どうしても私は不死川さんのお嫁さんになりたい。結婚したい。でもその前に不死川さんに私のことを好きになってもらわないといけないのだ。そこですみちゃんきよちゃんなほちゃんがしりとりをしながら夕ご飯の準備をしている姿を見て、名案を思いついた。その為、私は既成事実を作ることを決めた。

「まあまあ、そんなこと言わずにおはぎ買ってきたので休憩がてらどうでしょう」

その日の夜、私はとある練習をすみちゃんきよちゃんなほちゃんを相手に励んでいた。そして、もう申し分がないというところまで言ったところで、今日も月夜に照らされながら鍛錬に励み不死川さんの元へお邪魔した。勿論、手土産付きで。

「咄嗟に頭を働かせるっていう鍛錬にもなると思います！」

多分だけど。しりとりの他にもっと方法はあると思うけど。縁側で私がそう告げると不死川さんは一つため息を吐いて鍛錬を中断して隣に座る。
手を差し出されたのでおはぎを渡した。わあ、やった。

「私から始めますね！しりとりのり、からで～、リス！」
「睡眠」

間髪入れずに不死川さんはおはぎを頬張りながらポソッと呟いた。
乾いた風が吹いて不死川さんのふわふわしている髪が揺れる。猫みたいにふわふわしていそうだなって思って前寝ている時に触ったら怒られた。誰が猫だ、と。

「え！？終わっちゃいましたよ！？」
「俺の負けだ、いいだろォ」
「酷い！続けてくださいよ！」
「一回続けた」
「負けたらどうするか決めておくべきだった……」

そんなにすぐにすで始まってんで終わる単語が出てくるものなのだろうか。
一つ食べ終わってもう一つおはぎに手を伸ばす不死川さんにそれがとられる前に箱の蓋を閉めた。

「もう一回！それで、負けたら私の言うこと聞いてください」
「はァ？」
「結婚は除外しますのでご安心を！これは遊びで決めたくないことなので！」
「…まあ、いいけどよ。寄越せェそれ」
「はいどうぞ」

前に伊代さんが教えてくれたおはぎ、とても効果がある。ちょっと値が張るから毎日のようには持っていくことはできないけど、何かお願いするにかもってこいだ。伊代さんありがとうございます…。この味が作れるようになれば何の問題もないのだけど、なかなかそう上手くはいかない。

「不死川さんからどうぞ」

今度は不死川さんから、と振れば不死川さんは夜空を見上げた。つられて私も見上げる。今夜は満月だ。星もとても綺麗。そういえば、星には星座というものがあるみたいですよって、しのぶさんが言っていたっけ。

「……空」
「……ら、ら……ライス！」
「雀」

蝶屋敷に来たばかりのことを思い出していたら始まったしりとりに頭を切り替える。私はこのしりとりに賭けているのだ。とあることを。

「ええと、め、め、め………」
「目？」
「いやいや違います！違いますええっと……め、目安！目安！！」

苦しかっただろうか。不死川さんは私を目を細めて見る。怪しそうに。何も怪しいことなんてないのでこのまま続けていただきたい。

「スイカ」
「カラス！」
「寿司」
「不死川さん！」
「……」
「や、違いますよ？今名前読んだだけですよ違いますからね、ええと…し……師走！す、です！」

危ない。私が負けるところだった。これは絶対に負けられない、この日の為に三人にだって協力してもらったのだ。
実際、ほぼ私の負けのようなものだったのに不死川さんは何も言わずに、ただ、怪しい目で私を見るのは変わらず続けてくれた。

「炭」
「み、みですね、何だっけ…ええと……あ、ミムラス！」
「なんだそれ」
「花です、花！図鑑に載ってました！」
「つーかお前、さっきから”す”ばっかじゃねェか」

何だっけ、と言ったのはそうなのです、私は五十音で始まる単語を全て”す”で終わるものを頭に叩き込んできたのです。
出てこなかった単語は今のように蝶屋敷にある本で何とか探して、この日の準備を万全に整えてきた。

「降参ですかあ？」
「……砂」
「ナス！」

へら、と笑えば不死川さんはピシィ、とこめかみに青筋を立てた、気がする。
まだまだ私のレパートリーは沢山あるのです。

「……」
「言葉でもいいですよ！特別に」

テンポよく進んでいたしりとりが途切れた不死川さんへここで一つ提案をした。”す”で始まる言葉と言ったらあれしかないんですよ、不死川さん。それを口にしてくれたら、私は不死川さんが私に対してそう言ってくれた、と周りに豪語できるのだ。それについての詳細は勿論言わないけど。

「好き、」
「！！！わたしも、」
「やき」
「…………」

再び、乾いた風が吹いて髪が靡く。ちょっと寒くなってきたかも。不死川さんは寒くないのかな。代謝が良くて体温が高いからそんなこともきっとないのかな。で、なんて言いました？好き、じゃなくて、え？

「降参だな？」
「き、き…嫌い！」
「”す”縛りどうしたァ」
「嘘です降参ですとても好きです愛してます～！！」

一度勝利が見えたと思ったしりとりは私が白旗を上げることに。その懐に抱きつきながら例えしりとりでも一度口走ってしまったことを謝った。

「なほちゃんすみちゃんきよちゃんと特訓したのにぃ……」
「アホだな……」

逞しいその身体に頭を擦り付けながら今日はどう一緒に寝てもらおうか理由を考えていた中で、冷えた身体に羽織をかけてくれたことに気づくのはもう少し後の話。

月夜のしりとり

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