短編



選別が一緒だった同期とは、今でも何かと仲が良い。階級は同期の方が一つ上で私は置いていかれている状態だけれど、そんなことは気にせずこうしてたまに一緒になる任務があればそれが終わった後、茶屋でお互いの身の上話を始めてしまうのだった。

「宇髄さんのところ、厳しい?」
「そりゃ勿論。でも不死川さんほどじゃないと思うよ」

同期は宇髄さんの継子であった。その才能を見込まれ着実に力をつけていっている。そんな中、置いていかれまいと私も負けじと継子志願したのは風柱の元だった。なぜあんな怖い人の元を自ら志願したのかと言うと、単純に風の呼吸を使う柱が彼だったからだ。
自分が使っている呼吸の何倍もの威力の型を見た時は正直人間業ではないと思ったけど、おかげさまで私は強い鬼と対峙しても生きながらえることができている。

「みんなが思ってるほど厳しい人じゃないよ?」
「想像できないんだよな…」

お団子を頬張りながら私は他の同期にも言われたことを思い出した。よくあんな怖い人の元でずっと継子続けてられるねって。怖いのはまあ、そうかもしれないけど。でも稽古が終われば体を気遣ってくれるし怪我した時、無理やりでも稽古を頼んだら制された。そういうところ、きっとみんなは知らないだろう。

が元気でやれてるんならいいけどさ」
「うん、めちゃくちゃ元気だよ!」
「いいよな、自分が好きな人とずっと一緒って」
「……いやー…、照れますね」

にやりと笑みを浮かべる同期からあからさまに目を逸らした。同期の言う通り、私は実弥さんに惚れている。そして、それはあっけなく本人にバレてしまったのだ。俺の前だけ態度がおかしいからすぐわかる、と。穴に入りたいくらいだった。顔から火が出るかと思った。
しかし蓋を開けてみれば、今までとそんな変わらねえけど、と不透明な返事を貰えてしまったのだ。変わらないといいつつやることはやってしまっている。だからきっと私のことを好きでいてくれているんだろうと、言葉はないもののそう信じている。
元々そういうことに口数多い人じゃなさそうだし。

「どこがいいの?」
「ええ、なんだろう…どこがいいって言うより、実弥さんだから好き、みたいな…?」
「…ふぅん」

よくよく考えてみれば、何かきっかけがあって惚れてしまったわけではない。なんだか一緒にいる内にあれ、なんか今胸が煩くなったな~とか、あれ、実弥さんってこんなにかっこよかったっけ…?と徐々に徐々に意識してしまっていたのだ。
あ、私これ、実弥さんのことが好きなんだ、と頭の中で理解してしまえばもう、実弥さんのことしか考えられない毎日が続いていた。

「俺が柱みたいになれればな」
「?」
「いや、なんでもない。帰ろうか」

小さく呟かれたそれは、お茶で喉を潤わせていた私には聞こえなかった。
同期と別れてから私は不死川邸に向かう。土と木の香りしかしない殺風景なそこは稽古をする為だけの場所のようだった。

「実弥さん、戻りました」

今日は人員のあれそれで別々の任務だったけど、実弥さんは先に帰ってきていたようだった。私はお茶して帰ってきてしまったけど実弥さんはこうして任務に終わってすぐに鍛錬に励んでいる。自分の意識の低さに申し訳なくなってしまった。

「なんだ、それ」
「?ああ、茶葉です!今日行った茶屋のお茶が美味しくて茶葉が売ってたので実弥さんにも飲んでもらいたいなと思って。飲みませんか?休憩がてら」

私は、休憩しまくりなのだけれど。実弥さんはずっと動き続けているだろうし。あと、私が一緒にお茶したいだけというのもあるけれど。なら淹れてくれ、と上の隊服を脱ぎながら言う実弥さんに生唾を吞み込めばいつも見てるだろとため息混じりに言われてしまった。それはそうなんですけど。でもなんか、違うじゃないですか。かろうじて着てるのと着てないのでは。
私ばっかり意識しているな。それに多少の不満を持ちつつお茶を入れて縁側に座って刀の手入れをしている実弥さんの隣に座った。

「美味い」
「ですよね」

やっぱり私の味覚に狂いはなかった。またあの町に行った時はこれを買って帰ろう。実弥さんをじい、と見ていると視線に気付いたのか瞳が合わさった。夕焼けに照らされる肌が艶めいて見える。

「なんだァ」
「いやあ、今日同期と任務が終わったあとこれ買った茶屋で話してたんですけど、実弥さんがみんなが思うような人じゃないってどうしたらわかってもらえるかなって」
「はァ?」
「実弥さんだって茶屋でお茶くらい飲む人なのに、多分そういう人じゃないって思われてるんですよ。それに納得がいかないというか…」

多分この人は、何人もいる隊士全員からわかってもらおうなんて思ってはいないのだろうけど。それでも私がよく話す同期から理解されていないというのは複雑なもので。

「何回も話してるんですけどね…」
「話さなくていい」
「でも、本当は優しい人なのになーって…どう言えば伝わるんだろう…」

あの男め、と呟いて、わかってくれない同期を思い浮かべながらお茶を飲もうとしたけれど、手が動かなかった。その手は実弥さんに止められていた。

「あの、んっ、ぅ」

お茶はそっと手から奪われ、コト、と床に置かれた音が聞こえた。大きな手が私の後頭部を包み込むように抑えられ、両手が空いた私は実弥さんの肩に手を置いた。一度離れた隙に喋ろうとしたところ、それが深くなるだけとなってしまった。

「さ、実弥さん、…ん、ちょっと」
「……」
「ちょ、話を!」

徐々に夕日が沈んでいくのと同じように、私も実弥さんに沈みかけたところ、なんとか理性を保って押し返した。なんだよ、と低い声が不満を物語らせる。ほぼ押し倒されているような体勢で見上げた実弥さんの表情で、なんとなくわかった。

「……怒ってますか?」
「……」
「同期と二人で茶屋に行ったこと」

仲のいい同期がいるということは実弥さんは知っていた。それはこういう関係になる前よく話していた。だから、私は今の今まで特に問題のないことだと思っていたのだけど、よくよく考えたら。逆のことをされたら少し、嫌かもしれない。でも、私ばかり好きな気がしてならなかったから気付かなかった。

「怒ってねえよ」
「じゃあ、それは許容範囲と判断し、」
「怒ってる」

すぐさま撤回した実弥さんは目を少しだけ丸くした私から目を逸らした。けれど体勢はこのままらしい。

「同期って宇髄のとこのだろ」
「そうですそうです、覚えてるんですね」
「任務一緒だった時一回あるだろ。お前に対する下心が見え透いてたから覚えてる」
「ないない、ないですよ」
「男が好きな女見る目なんざわかるんだよォ」

ばつが悪そうにそう言うけれど、私はそれが心底嬉しかった。良かった。私ばっかり意識しているわけじゃなくて。

「何笑ってる」
「安心しました、私好かれてるのかなって、多少思ってたので…」

好きでもない相手と、こういうことをする人ではないとわかってはいるものの、やっぱり私は安心できる言葉や態度が欲しかったんだと自分を納得させた。

「今度一緒に茶屋で甘いもの食べましょう」
「いいけどその前に」
「わっ、」
「喰わせろォ」

沈みかけの夕日のせいで、実弥さんの後ろに広がる薄暗い空の中では星が眩く煌めいていた。

夕暮れの戯れ言

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