「さんさー、友達いないの?」
「………はい?」
先週末、隣の席だったにも関わらず一ヶ月以上ろくに話したことがなかった御幸くんと初めて話をした。人伝いで間接的にどんな人なのかはわかっていて、とっつきにくそうな人だなあなんて、人のことは言えないけれどそう思っていた。でも話してみると案外普通だった。興味ないことにはとことん興味ないのはその通りだったけど。
そんな御幸くんから、机の前に広げるお弁当に手をつけようとしたところで放たれた一言。夜に会って話して以降の初めての会話がそれですか。
見れば御幸くんは頬杖つきながらこっちを見ている。何、この人。
「……御幸くんに言われたくないんですけど」
確かに普通昼休みは仲良い子と机を合わせていただきますってしてるはず。あの廊下側の一番後ろの席の子達や、教室の真ん中辺りでグループ意識高そうにしている子達みたいに。
けどその輪に入らない私を見て容赦無く言い放たれた言葉に良い気はしなくて思わず言い返した。
じと、と御幸くんを見据える私に御幸くんはお腹を抱え出した。また笑われた。
「はっはっは、そりゃそーだ」
何なんだ、一体。ていうか早く出て行けばいいのに。確か御幸くんはいつも、彼女さんに呼ばれて昼休みはどっかに行く。御幸くんから出向いてあげればいいのに。
御幸くんの彼女は、とても有名。御幸くんの彼女だから有名ってわけじゃなくて、元々明るくて人脈広くて目立つような子。おまけにとても美人ときた。可愛いよりの、アイドルグループとかにいそうな感じの。私も初めて見た時は国宝ものなんじゃないかって、遠目だけどそう思った。
美男美女と言われるもはや青道の生徒全員の公認と言われているカップル。なので、どちらかに告白するような人も現れないとかも小耳に挟んだ。話題のカップルだ。
私なんて御幸くんだけじゃなく、この前日直一緒だった男子から日誌に日直の名前書くから名前教えて、なんて言われた。世界は残酷である。
「さん球技祭何でんの?」
「ああ、そういえばそんなのあったね。どうしよ。個人種目がいいな。テニスとか」
「ソフトボールやれば?」
「人の話聞いてる?」
ていうかまだいたんですか。ゆっくりお弁当食べたいのですが。すごく御幸くんのペースに持って行かれてしまっている。
不服に思いながら朝のホームルームを思い出す。球技祭について何出たいか少しでもいいから考えとけって担任の先生が言っていた気がする。今日もちゃんとネクタイをしているか私のことを目を細めて見ていたのはきっと気のせいではない。
「団体のが友達できんじゃん」
「今更。私人見知りだし」
「その見た目で人見知りなの?最悪じゃん」
「どういう意味」
「そのまま」
やっぱり、乗せられている気がする……。クツクツ笑ってる御幸くんをほっといて食べかけのお弁当に手をつけた。やっぱり性格が悪いのは本当のようだ。でも彼女がいるくらいだし、私が知らないだけでいいところはあるのだと思う。どこがいいのだろうか。そこは彼女しか知らない特権だ。
「ソフトなら俺教えてやれるし」
「ええ、いや……キャッチャーは勘弁。怖そう。ていうか御幸くんこだわり強そうだし。外野ならまだしも……」
何を言っているんだろう、この人は。読めない。
そもそも本業の人に教えてもらうとか本当に遠慮したい。運動なんて生まれてこの方体育以外でやったこともないし。しかも名門校の野球部レギュラーの指導なんて、無理無理。
「……俺がキャッチャーってこと知ってんの?」
さっきまでクツクツ笑っていた御幸くんはやっと止まってくれた。ご飯をごくりと飲み込んで御幸くんを見ればレンズ越しの目が大きくなってた。窓際、ちょっと日差しが眩しい。
「そりゃ、よく聞くし」
「そんなに?」
「うん」
性格悪いこともよく聞くよ、とも言いたくなったけどそれはまたおかずと一緒に飲み込んだ。
自分が思っているより御幸くんは騒がれているのだ。
「御幸ー、彼女呼んでる」
「今行くー」
教室の前の扉から倉持くんが御幸くんを呼ぶ。その後ろには有名な彼女さん。やっと来てくれたことにこっそり心の中で安堵する。
立ち上がった御幸くんを目で見送ろうとしたけど眼鏡の奥の瞳はいまだ私を捉えていて。
「じゃ、早速明日からな」
「え?」
「外野なら?外野だって重要なんだぜ?ビシバシ行くからな」
「は?」
一也~、なんて声まで可愛い彼女さんに呼ばれて、拍子抜けしている私を置いて行った。
……ちょっと、何、どういうことですか。